日本で見かけたおかしな中国語

概要
日本の街角で採集されたおかしな中国語の事例集。

はじめに

「日本の街角で見かける英語でおかしいものがある」といった話を聞いたことはないだろうか? 例えば、「あぶないから、はいってはいけません」という日本語に対して、“Because you are dangerous, you must not enter.” という変な英語が訳として付されていることがある [1] 。この英語だと「あなたは危険(な人物)だから、あなたは入ってはいけません」という意味になってしまう。

実は、英語だけでなく、中国語にもおかしなものがある。日本にある看板や標識などに、文法的におかしかったり、誤解を生みそうな中国語が書かれているのだ。例えば、少しエッチな話ではあるが、「ぶっかけうどん」を“颜射烏冬面”(顔射烏冬麵)に訳してしまったという話がある [2]

こんな感じのおかしな中国語の事例は、日本の街角にあふれている。と言うわけで、私が採集したおかしな中国語の事例をいくつか紹介していきたいと思う。

ものすごく気になったもの

その語順、日本語のままですよ

クレジットカードのご利用は出来ません

信用卡的使用可以不

2017年9月に、神奈川県横浜市の新横浜駅の新幹線ホームにて採集した事例。

中国語の語順を全く無視した翻訳である。中国語の単語をなぜか日本語の語順で並べてしまっている。ある意味で究極の直訳だ。この中国語訳のおかしさをあえて日本語で表現すると、「ないできる使用クレジットカード」みたいになるだろうか。

正しくは、“不接受信用卡支付”や“本店不支持信用卡付款”とすれば良いだろう。

「1つの中国」政策を支持しているのかも

2017年12月に東京都千代田区にて採集した事例。“有一个中国菜单”と書かれている。
2017年12月に東京都千代田区にて採集した事例。“有一个中国菜单”と書かれている。

これは喫茶店にあったもので、おそらく「中国語のメニューあります」と言いたかったのだろう。しかし、この中国語だと、「1つの中国のメニューがあります」という意味になってしまう。ここは、“有中文菜单”とするのが良い。あるいは、もっとフォーマルな言い方にしたければ “本店提供中文菜单”とすれば良いだろう。

これはもしかして機械翻訳によって生じたものなのかもしれない。機械翻訳エンジンには、日本語から中国語に直接訳すのではなく、日本語から一旦英語にした上で英語から中国語に訳すようなものもある。まず、英語にするときに、「中国語のメニュー」が “a Chinese menu” と訳される。日本語では単数か複数か明確になっていなかったのに、英語になった時点で不定冠詞の “a” が付き、この “a” が中国語の“一个”に訳されたのだろう。また、日本語での「中国語の」という文言が英語では “Chinese” となるのだろうが、この英語は「中国語の」という意味にだけでなく「中国の」という意味にもなる。そして、そこから中国語にするときに「中国の」という意味の方を選んでしまったのだろう。

似たような例は他の場所にもあるようで、日本のマクドナルドで“一个中国的菜单”という表示を出したところがあるそうだ [3]

軍師のように深謀遠慮すれば良いのかしらん

2018年2月に東京都台東区上野にて採集した事例。2行目に“给店内的饮食物的带入 请远虑”と記されている。
2018年2月に東京都台東区上野にて採集した事例。2行目に“给店内的饮食物的带入 请远虑”と記されている。

これは食堂にあった事例。おそらく2行目の中国語は、「店内への飲食物の持ち込みはご遠慮ください」という意味。しかし、かなりの直訳ぶりで中国語としてかなり破格。

また、日本語の「遠慮」には差し控えるという意味があるが、中国語の“远虑”(遠慮)にはない。中国語の“远虑”は文字通り遠い将来のことまでおもんばかることを指す。軍師じゃないんだから、深謀遠慮してどうする

声の大きさが気になるのかもね

静かにご見学ください

請別由於大的聲音話 [4]

2017年9月に福島県会津若松市にて採集した事例。

中国語の文は、あえて直訳するとしたら「大きな声によって話さないでください」という意味になるだろうか。おそらく“話”は日本語の「話す」という動詞に対応しているのだと思うが、中国語ではこのように“話”を単独で動詞に用いることはほとんどない。この中国語でも、まぁ何となく意味は分からなくと思うが、“請勿大聲喧嘩”’(簡体字:请勿大声喧哗)といった定型表現を使った方が分かりやすい。

割と気になったもの

巻いてどうする

2012年4月に東京都渋谷区にて採集した事例。左上側に日本語で「食券」、右上側に中国語で“食巻”と書いてある。
2012年4月に東京都渋谷区にて採集した事例。左上側に日本語で「食券」、右上側に中国語で“食巻”と書いてある。

日本語の「食」に対応する中国語が“食”になってしまっている。巻いて何をしようというのか。なお、そもそも「食券」は中国語では“餐券”というのが自然だと思う。

牡蠣が美味しいのは分かりますよ

2017年6月に、和歌山県和歌山市にて採集した事例。“1年内好吃的牡蛎的店 2所旁边”という中国語が書かれている。
2017年6月に、和歌山県和歌山市にて採集した事例。“1年内好吃的牡蛎的店 2所旁边”という中国語が書かれている。

おそらく「一年中美味しい牡蠣かきの店 二軒隣に」ということを言いたかったのだろう。“二所旁边”という表記はよくするが、算用数字を用いて“2所旁边”とするのはやや破格。また、「一年中」は普通は“整年”とか“全年”とか言う。

助詞に対応させたくなるのも分かりますよ

お客様へ
館内は飲食禁止です!
館内では写真撮影禁止です!

尊敬的顧客
馆内是禁止饮食!
馆内是禁止摄影!

2018年1月に東京都台東区上野にて採集した事例。

ここで“是”は要らない。日本語の助詞の「は」に対応する中国語を入れたかったのだろうが、蛇足である。

少し気になったもの

かばんなのね

2017年11月に東京都新宿区の明治神宮外苑にて採集した事例。“请注意别误拿了别人的行李或包包”などと書かれている。
2017年11月に東京都新宿区の明治神宮外苑にて採集した事例。“请注意别误拿了别人的行李或包包”などと書かれている。

おそらく、「他の人の荷物やかばんを間違って持っていかないようにご注意ください」と言いたかったのだと思う。ここで気になったのが、“包包”。これは「かばん」という意味だけれども、幼児語的表現である。日本語で言うと、犬のことを「わんわん」と言うようなものだ。(ただ、台湾やなんかだと、大人が“包包”と言うことも多いので、一概におかしいとも言いきれないが。)なお、本題からは外れるが、“Using nicotineless…”という英語もよく分からない。

再入場不可だけど

2017年2月に東京都台東区の東京国立博物館にて採集した事例。「再入場は出来ません」に対応する中国語として“再入场不可”と書かれている。
2017年2月に東京都台東区の東京国立博物館にて採集した事例。「再入場は出来ません」に対応する中国語として“再入场不可”と書かれている。

“再入场不可”で通じなくはないと思うが、いかにも日本語を直訳した感じがする。“不得再次入场”とするのが良いと思う。

脚注
  1. Santoso, A. (2014, July 2). Because You Are Dangerous, You Must Not Enter. []
  2. パンセポンセ [@panseponse7] 〔編〕.(2015年11月15日).「うどん屋の『ぶっかけうどん』中国語表記がまさかの誤訳で笑いの渦「なぜこうなった」」『Togetter』. []
  3. 环球网.(2016年7月28日).台媒:日本麦当劳也懂“九二共识”? 菜单惊现“一个中国”. []
  4. この事例は繁体字中国語で書かれていた。簡体字にすれば、“请别由于大的声音话”になる。 []