“涩谷”、“澀谷”
東京の「渋谷」を中国語で表記する場合、簡体字では“涩谷”、繁体字では“澀谷”となるのが普通である。なお、発音は、簡体字であろうと繁体字であろうと “Sègǔ” である。
渋と涩と澀は異体字の関係にある。『康熙字典』では“澀”が正字で、“澁”がその同字として扱われている。日本では旧字体が「澁」で、それに対応する新字体が「渋」なので、「渋谷」という表記が用いられている。また、“涩”は“澀”に対応する簡体字である。
“涉谷”
ところで、たまに「渋谷」のことを中国語で“涉谷”と表記している例がある(簡体字でも繁体字でも“涉谷”となる)。渋(涩、澀)と渉は違う字で、発音も少し違う。中国語では“涩”が sè であるのに対し、“渉”は shè である。
対応させるべき漢字を取り違えたという点で、“涉谷”は誤字と言える。ただ、この表記は存外多い。おそらく発音も字形も似ているために混同してしまったのだろう。
そもそも“涩”(sè) と“渉”(shè) の発音にはわずかな違いしかない。しかも、中国大陸南部や台湾では s と sh の発音を区別しない人も多く、そういった人にとっては sè も shè も完全に同じ発音になってしまう。
また、日本語の「渋」という字を見れば、“涩”や“澀”より“渉”の方がよほど似ている。こんなことから、“涉谷”という表記が生まれてしまったのだろう。
参考
上記のように、「渋谷」が“涉谷”と書かれることがあると指摘しているブログ記事として、以下のものがある。