2017年のフランスのバカロレアの哲学の問題

概要
2017年6月15日にフランスで行われたバカロレア(大学入学資格試験)の哲学の試験でどういう問題が出題されたかを紹介。

バカロレアと哲学

この記事では、6月15日に実施された2017年のフランスのバカロレアでの哲学の問題を紹介する。フランスにおけるバカロレア (baccalauréat) とは、大学入学資格を手に入れるための国家的統一試験であり、毎年6月に行われる。

バカロレアでは、哲学 (philosophie) という科目を受験しなくてはならないことになっている。哲学の試験は4時間かけて行われ、専攻ごとに異なる問題が出される。各専攻とも3つの問題が出され、受験者はそのうち1問に答えることになる。どの専攻も、問題構成は同じである。1問目と2問目では、哲学に関する問題が短い疑問文で与えられ、その答えを書くことが求められる。3問目は哲学者が書いた文章が与えられ、その解説を書くことが求められる。

人文系の哲学の問題

まずは、人文系 (littéraire; L) の生徒に出された2017年のバカロレアの哲学の問題を見てみよう。

  1. 認識するには観察するだけで十分なのか? (Suffit-il d’observer pour connaître ?)
  2. 自分にする権利があることはすべて正当なのか? (Tout ce que j’ai le droit de faire est-il juste ?)
  3. ジャン=ジャック・ルソー『人間不平等起源論』(Discours sur l’origine et les fondements de l’inégalité parmi les hommes) からの抜粋の解説
ルソーの肖像画。
ルソーの肖像画 [1]

問1の認識 (connaissance) に関しては、2013年の経済社会系でも「認識を欠いた場合、解釈できるか?」 (Interprète-t-on à défaut de connaître ?) という問題が出されている。

問2で正当と訳した juste は、「正義」とも「公正」とも訳すことが可能であろう。この juste を使ったものとして、2005年の人文系で「正義と不正義はしきたりにすぎないのか?」(Le juste et l’injuste ne sont-ils que des conventions ?) という問題が出されている。また、今年は理系でも 権利 (droit) についての問題が出ている。

問3はジャン=ジャック・ルソーが書いた『人間不平等起源論』から抜粋された260語程度の文章を読んで、その解説を書く課題である。 出題された文章は長いので訳出しない。読みたい人は、Philosophie magazine での2017年人文系バカロレア哲学の問題のページを参照のこと。なお、『人間不平等起源論』の日本語訳としては、岩波文庫に『人間不平等起ママ』がある。

ルソーはジュネーブ出身の哲学者で、18世紀にフランスなどで活躍した。著作に『社会契約論』などがある。なお、2012年の理系の哲学で、ルソーが書いた『エミール』からの抜粋が出題されている。

経済社会系の哲学の問題

次に経済社会系 (économique et social; ES) の生徒に対する2017年のバカロレアの哲学の問題を見てみよう。

  1. 理性はすべてを説明することができるのか? (La raison peut-elle rendre raison de tout ?)
  2. 芸術作品は必然的に美しいのか?(Une œuvre d’art est-elle nécessairement belle ?)
  3. トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(Léviathan) からの抜粋の解説
『リヴァイアサン』の初版(1651年)の表紙。
『リヴァイアサン』の初版(1651年)の表紙 [2]

問1の理性 (raison) については、最近では、2012年の人文系において「信仰はすべて理性に反するのか」 (Toute croyance est-elle contraire à la raison ?) という問題が出ている。

問2は、芸術 (art) に関する問題。バカロレアの哲学の問題において、芸術に関する問題は頻出。2015年には、経済社会系で「芸術家は分かるものを生み出すのか?」(L’artiste donne-t-il quelque chose à comprendre ?) という問題が出ているし、2014年には人文系で「芸術作品は我々の知覚を鍛えるのか?」(Les œuvres d’art éduquent-elles notre perception ?) という問題が、理系で「芸術家はその作品の主人なのか?」(L’artiste est-il maître de son œuvre ?) という問題が出されている。

問3はトマス・ホッブズの『リヴァイアサン』から抜粋された260語程度の文章を読んで、その解説を書く課題である。『リヴァイアサン』は有名な政治哲学書で、抜粋部分は法と自由について論じている。出題された文章は長いので訳出しない。読みたい人は、Philosophie magazine での2017年経済社会系バカロレア哲学の問題のページを参照のこと。なお、『リヴァイアサン』には、中公クラシックスの和訳光文社古典新訳文庫の和訳がある。

ホッブズは17世紀に活躍したイギリスの哲学者。ホッブズの『リヴァイアサン』は2010年の理系の哲学でも出されている。

理系の哲学の問題

最後に理系 (scientifique; S) の生徒に対する2017年のバカロレアの哲学の問題を見てみよう。

  1. 権利を守ることは、利益を守ることなのか? (Défendre ses droits, est-ce défendre ses intérêts ?)
  2. 人は自らの文化から自由になることができるのか? (Peut-on se libérer de sa culture ?)
  3. 『ミシェル・フーコー思考集成』(Dits et Écrits) からの抜粋の解説

問1とほぼ同じ問題が実は2002年に出されている。2002年の経済社会系には「権利を守ることは利益を守ることと同じなのか?」 (Défendre ses droits, est-ce la même chose que défendre ses intérêts ?) という問題が出されており、構文こそ2017年のものと違うものの、実質的に同じことを問うている。なお、利益 (intérêt) というキーワードが出てきた過去の事例として、2016年の経済社会系の「歴史を学ぶことが我々にとって利益があるのはなぜか?」(Pourquoi avons-nous intérêt à étudier l’histoire ?) という問題がある。

問2の se libérer は「自由になる」と訳したが、「免れる」や「解法される」と考えても差し支えないだろう。この問題と趣旨が似た問題として、2015年の経済社会系で「個人の意識は、その属する社会の反映でしかないのか?」 (La conscience de l’individu n’est-elle que le reflet de la société à laquelle il appartient ?) という問題が出ている。また、自由が関わる問題としては、2012年の理系の哲学で「国家がなければ我々はより自由になるだろうか?」 (Serions-nous plus libre sans l’Etat ?) という問題が出たことがある。

問3は『ミシェル・フーコー思考集成』から抜粋された260語程度の文章を読んで、その解説を書く課題である。フーコーは20世紀フランスを代表する哲学者。抜粋部分では「エラー」(erreur) について論じられている。出題された文章は長いので訳出しない。読みたい人は、Philosophie magazine での2017年経済社会系バカロレア哲学の問題のページを参照のこと。

フーコーは少なくとも2007年から2016年の間は出題されていない。もしかしたら今回が初めてかもしれない。なお、『ミシェル・フーコー思考集成』は、筑摩書房から全10巻の和訳が出ている。

脚注
  1. Wikimedia Commons のパブリックドメイン画像を利用。 []
  2. Wikimedia Commons のパブリックドメイン画像を利用。 []