小さな標識に大きな物語
前に地中海の島国であるマルタに行ったときに、次のような写真を撮った。

この写真に写っているのは、通りの名前を示す小さな標識だ。上段がマルタ語、下段が英語になっている。なんということのない写真ではあるが、地中海世界の言葉の歴史の奥深さを写し出した興味深い写真であると思う。
マルタ語の部分を見てみよう。TRIQ IR-REPUBBLIKA と書かれている。TRIQ はアラビア語の ṭarīq(道)に由来しているようで、REPUBBLIKA は究極的にはラテン語の res publica(共和国)に由来しているようだ。実は、マルタ語は、古典アラビア語から分かれ出た言語で、さらにラテン語から派生していったロマンス語の影響を受けてきた言語である。『言語学大辞典』の「マルタ語」の項には以下のように記されている。
一般に,西欧的文物を表わす語彙はイタリア語(略 It.)などのロマンス語(近年は,英語も)を借用し,日常の基礎語彙はアラビア語起源である.
ある意味で、マルタ語はアラブの言葉とローマの言葉が交わってできた言語なのだ。地中海世界に大きな影響を与えた2つの言葉が、なんということのない写真で交わっているというのは、とても面白い話であると思う。
