『詩経』での「忖度」の用例
最近、「忖度」(そんたく)という言葉がにわかに流行するようになった。大阪の森友学園事件に関して、官吏が上位者の意思を推しはかって色々な物事を進めたのではないかという話が出ているためだ。
ところで、私の知るかぎり、「忖度」という言葉の最も古い用例が見られるのは『詩経』である。『詩経』は、中国で最も古い詩集で、周代に作られたとされる詩が収められている。この詩集に載っている「巧言」という詩 [1] に、「忖度」という言葉が用いられている。この詩は6章からなるが、その4章目に「忖度」が使われている。4章目を以下に引用する。
毛詩の小序には、「巧言、刺幽王也。大夫傷於讒、故作是詩也。」とある。すなわち、「巧言」という詩は、周の幽王(在位:紀元前781年–紀元前771年)をそしる詩であり、讒言に苦しめられた大夫が作ったものであるとされる。小序の記述が正しいかどうかは分からないが、幽王は暗君として有名なので、幽王をそしるという設定自体に違和感はない。
上記の詩は、他の古い文献でも引かれている。例えば、『孟子』の「梁恵王上」編には斉の宣王が『詩経』の「他人有心、予忖度之。」という言葉を引くシーンがある。
脚注
- 「巧言」の全文は中国語版ウィキソースの「巧言」で見ることができる。また、戦前に書かれたものだが、この詩の日本語での解説として、『国訳漢文大成 3 詩経』(pp. 636–644) や『経書大講 7 詩経(中)』(pp. 202–208) がウェブ上で簡単に見られる。また、『新釈漢文大系 111 詩経(中)』に現代語訳がある。この本はそこそこの規模の公共図書館に行けば大概置いてある。 [↩]