一
あるくにに だいがくいんという とても りっぱな がっこうが ありました。このがっこうでは だいがくいんせいという ひとたちを そだてて よのなかのやくにたつ りっぱなひとにするのです。そして このがっこうを でた りっぱなひとのことを「はくし」といいます。
はくしたちは とっても ものしりです。みんなが いままで わからなかったことを あきらかにしてくれます。みんなが いままで こまっていたことを かいけつしてくれます。みんなが いままで しらなかったことを おしえてくれます。
はくしになるには「はくしろんぶん」というものを かかなくてはなりません。ひとつのことについて じっくり けんきゅうして それを ぶんしょうに まとめて かくのです。みんなが いままでしらなかったことを しらべて それを ぶんしょうに まとめて かくのです。うそのことを かいてはいけません。じぶんで しらべて ほんとうだと わかったことを ぶんしょうに まとめて かくのです。はくしろんぶんを かくのは とってもたいへんです。でも ちゃんと ろんぶんをかくことができれば みんなが はくしと みとめてくれます。とっても めいよなことです。
きょうは だいがくいんから はくしが ふたり でてきました。ひとりは とっても きらきらしていて たのしそうです。もうひとりは とっても どんよりしていて かなしそうです。きらきらしているはくしは「かねもちはくし」です。どんよりしているはくしは「びんぼうはくし」です。ふたりは おなじはくしなのに てんでちがいます。かねもちはくしは とってもおしゃれで じしんにあふれています。びんぼうはくしは とってもうすぎたなくて げんきがありません。かねもちはくしは けんきゅうひという おかねを たくさんもっています。びんぼうはくしには それがありません。
でも はくしですから きっと ふたりとも みんなのために はたらいてくれるでしょう。きっと ふたりとも みんなのために がんばってくれるでしょう。きっと ふたりとも。きっと。
二
かねもちはくしは りっぱなしごとに ついています。とってもゆうめいな けんきゅうじょで はたらいています。だいがくいんに いたときに きょうじゅというひとが しょうかいしてくれたしごとです。えらいきょうじゅは かならず「こね」というものを もっています。これがあれば あたらしいはくしに しごとをあげることができるのです。
かねもちはくしが けんきゅうじょで はたらくと おかねが たくさんもらえます。おかねが たくさんあるから とってもひろいいえに すむことができます。おかねがたくさんあるから とってもおいしいものを たべることができます。
また かねもちはくしは「けんきゅうひ」というおかねを たくさんもっています。これがあると じっけんをしたり かんさつをしたりするときに とってもべんりです。ひとをやとって じっけんの てつだいを してもらうこともできます。とおいがいこくでの かいぎに いくこともできます。そうすると よゆうができますから かねもちはくしは じっくりと がくもんについて かんがえることができます。じっくりと かんがえれば よのなかのためになることが たくさんできます。
だから かねもちはくしは みんなのためになることが たくさんできます。かねもちはくしが けんきゅうじょで しごとをすると みんなが いままで しらなかったようなことを どんどん はっけんしました。いままで わからなかったことが かねもちはくしのおかげで わかったのです。
ある えらい せいじかが いいました。「かねもちはくしは すごいなあ。こんなに かしこいなら もっとおかねをあげれば きっともっとやくにたつことを はっぴょうしてくれるだろう。よさんを よういしなくちゃ。」
べつの えらい せいじかがいいました。「かねもちはくしは すごいなあ。これなら とってもゆうめいなしょうを わがくにに もたらしてくれるかもしれない。くんしょうを よういしなくちゃ。」
かねもちはくしは これをきいて えへんという きもちになりました。そして もっともっと たくさんのろんぶんを はっぴょうしました。きっときっと みんなのためになることでしょう。
三
びんぼうはくしは ていしょくが ありません。ていしょくというのは あんしんして せいかつするために ひつようなしごとのことです。ていしょくがないから びんぼうはくしは とてもこまっています。
びんぼうはくしは「ひじょうきん」として だいがくで おしえて おかねをもらっています。でも もらえる おかねは ほんのすこしです。だから びんぼうはくしは とっても ちいさないえにしか すめません。あそびにいったり おいしいものをたべたりすることも できません。たべていくだけで せいいっぱいなのです。
ていしょくがないと じっくりと がくもんについて かんがえることができません。まずは じぶんのせいかつが だいじですから そればかり かんがえて がくもんを かんがえることができません。だから びんぼうはくしは よのなかのためになることを うみだせないのです。
「けんきゅうをするじかんが ほしいなあ」と びんぼうはくしはおもいました。「でも ひじょうきんのしごとのじゅんびをしないと おかねがたりなくなっちゃうなあ。ああ けんきゅうのまえに そっちのじゅんびを しなくちゃ。」
そんな ちょうしでしたから びんぼうはくしは なかなか よいけんきゅうをすることができません。
ある おやくにんが いいました。「びんぼうはくしは だめだなあ。こんなに ひどくてはおかねをあげても きっと なにもうみださないだろう。けんきゅうひを とりあげなくちゃ。」
べつの おやくにんが いいました。「びんぼうはくしは だめなあ。こんなんじゃ とっても だいがくで じゅぎょうを させるわけにはいかない。じゅぎょうを とりあげなくちゃ。」
びんぼうはくしは これをきいて めそめそという きもちになりました。そして もっと もっと せいかつに こまるように なりました。きっと きっと みんなのやくにはたたないでしょう。
そして えらいひとたちは びんぼうはくしから おかねを とりあげました。そのおかねは みんな かねもちはくしのものになりました。びんぼうはくしは ますます どんよりしました。かねもちはくしは ますます きらきら しました。びんぼうはくしの しわくちゃになったかおは もっと もっと しくしく というかおになりました。
四
あるひのことです。あるがくしゃが かねもちはくしが かいたものは おかしいといいました。みんなは かねもちはくしを しんようしていましたから そのがくしゃのほうが まちがっていると かんがえました。しかし そのがくしゃは かねもちはくしが おかしいしょうこを たくさんあげました。すると みんなも かんがえを だんだんかえました。
「かねもちはくしが かいたぶんしょうは ぼくのぶんしょうを かってにつかっている」と あるひとが いいました。
「かねもちはくしが つかったしゃしんは ほかのしゃしんを きってはっただけだ」と べつのひとが いいました。
こうなると なんにんかのひとが かねもちはくしを しんじなくなりました。でも かねもちはくしは「わたしはうそつきじゃないよ」と いっています。だから かねもちはくしを しんじているひとも まだまだ たくさんいます。ある えらい せいじかが いいました。「ほんにんが うそつきじゃないといっているのだから かねもちはくしは ただしいんだ。かねもちはくしのけんきゅうは もんだいが ないんだ。ほかのひとのしてきは きっと かねもちはくしに しっとして わけのわからないことを いっているだけなんだ。」
かねもちはくしは これで じしんまんまんになりました。「わたしはうそつきじゃないよ。わたしはうそつきじゃないよ」とくりかえしていいました。じっけんのしょうこをみせてと いわれても「わたしはうそつきじゃないよ。わたしはうそつきじゃないよ」とくりかえしていいました。かいたものがまちがっていると いわれても「わたしはうそつきじゃないよ。わたしはうそつきじゃないよ」とくりかえしていいました。
あるひとが いいました。「そうだ。そうだ。かねもちはくしは ただしいんだ。」べつのひとが いいました。「そうだ。そうだ。かねもちはくしは もっとすごいことをしてくれるぞ。」
かねもちはくしは これをきいて えへんえへんという きもちになりました。だいじょうぶです。きっと びんぼうはくしか だれかが しっとしているだけなんですから。
五
さて かねもちはくしは だいがくいんで はくしろんぶんを かいています。そのはくしろんぶんを あるものずきなひとが よみました。すると ほかのひとのぶんしょうを うつしたものが たくさんありました。ほんとうなら はくしろんぶんは じぶんでかかないといけません。ほかのひとのを まるうつしするなんて もってのほかです。
こうなると だいがくいんの えらいせんせいたちも だまっていません。そこで「ちょうさいいんかい」というものを つくって かねもちはくしが はくしとして ふさわしいか しらべることになりました。すると あれやこれやと おかしいところが たくさんでてきます。かねもちはくしを おしえていたはずの せんせいは かねもちはくしの かいたものを ちゃんとよんでいなかったようです。かねもちはくしは ぶんしょうのかきかたが わかっていなかったようです。かねもちはくしは どうやら じぶんで ちゃんと しらべていなかったようです。
ちょうさいいんかいが できたとしって びんぼうはくしは すこし ぴょんぴょんした きぶんに なりました。かねもちはくしのような ひどいひとが いなくなれば じぶんのせいかつは すこし よくなるだろうと おもったからです。「わたしみたいに こつこつ やっているひとが ひょうかされる じだいが きっとやってくる」と びんぼうはくしは おもいました。そうです。びんぼうはくしは うそつきでは ありません。きっと きっと しょうじきものは むくわれるでしょう。そして かねもちはくしのような うそつきは ばつをうけるのです。
六
ちょうさいいんかいが ついに ほうこくしょを はっぴょうします。かねもちはくしは びくびく しています。びんぼうはくしは うきうき しています。
ちょうさいいんかいの えらいせんせいが いいました。「かねもちはくしの はくしろんぶんは だめなろんぶんだ。」これをきいて かねもちはくしは があんというきもちになりました。びんぼうはくしは わあいというきもちになりました。
えらいせんせいは ことばをつづけます。「でも かねもちはくしから はくしを とりあげてしまうと かねもちはくしの せいかつを はかいして かわいそうだから はくしを とりあげるわけにはいかない。」これをきいて かねもちはくしは わあいというきもちになりました。びんぼうはくしは があんというきもちになりました。
びんぼうはくしは これをきいて とっても おどろきました。びんぼうはくしは しごとがなくて せいかつなんて とっくのとうに はかいされきっています。だけど だれもびんぼうはくしのことを かわいそうだと おもってくれません。みんな「じこせきにん」だといいます。
「かわいそうな」かねもちはくしの いうことを きいてくれるひとは います。だけど びんぼうはくしを きにしてくれるひとは いません。かねもちはくしを なぐさめてくれるひとは います。だけど びんぼうはくしに よりそってくれるひとは いません。
びんぼうはくしは あかちゃんに もどったように わあんわあんと おおきなこえを あげて ただただ なきました。
ちゅういがき
このおとぎばなしは ふぃくしょんです。つまり うそのおはなしです。ほんとうのことは かかれていません。はくしになろうというひとが こんなひどいことを するわけは ありませんよね。とっても えらいひとたちが こんなばかげたことを するわけは ありませんよね。だから この おとぎばなしは ほんとうでは ありません。ぜんぶ うそのおはなしです。えっ なんで うそのはなしを かいたかって? それは わたしが うそつき だからです。そうにきまっているでしょう。