「奨学金」の滞納
日本では、「奨学金」のほとんどが貸与奨学金である。つまり、奨学金をもらったら返さないといけないのである。このため、「奨学金」という名前はついているものの、実態としては借金となっている。
さて、当然ながら借金が返せない人がいる。奨学金を広く貸し出している日本学生支援機構では、平成24年度末時点で、奨学金返還で延滞している者が194,153人いるという [1] 。日本学生支援機構が行った「平成24年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果」によると、奨学金の延滞者のうち18.2%が「無職・失業中/休職中」である。また、同調査によると延滞が継続している理由で最も多いものが「本人の低所得」で、延滞者の47.5%が理由として挙げている。奨学金が返せない人は、仕事がなかったり、経済的に苦しんでいることで、返すに返せないと言うことがうかがえる。
問題の発言
さて、学生にどうやって経済的支援を与えるか、そして奨学金の延滞問題にどう対処するかについては、政府でも民間でも議論が行われている。
文科省では「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」という有識者を集めた検討会を行っている。その中で、奨学金の延滞者に関して、委員の一人である経済同友会の専務理事の前原金一氏 [2] が驚くべき発言をしている。同検討会の議事録から前原委員の発言を紹介しよう。
要するに職のない奨学金延滞者に対し、警察庁、消防庁、防衛省などで1-2年インターンとして働かせようと言っている。しかも、防衛省に関しては「考えてもいいと言って」いるとのことである。
このことは、いわゆる「経済的徴兵制」を想起させる。つまり、貧しい階層の人間が個人の意思に反して軍隊などでの労務を行わされることになるということである。前原委員は仕事がない若者を助けようという善意で言っているのかもしれないが、やろうとしていることは借金のカタにとるようなものである。
このことは、すぐにどうこうなるという話ではないが、今後の動向を注視すべきであろう。
- 日本学生支援機構のウェブサイトに掲載されている「平成24年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果」による。なお、平成24年度末時点で延滞していない者は、2,894,871人である。 [↩]
- 前原氏は、日本学生支援機構の政策企画委員会の委員でもある。 [↩]