「遷」の旧字体

概要
戦前の日本の明朝体活字での「遷」は、現代の字体で「己」となっている部分を「巳」にするものがほとんどであり、たまに「⺋」とするものがあった。

「遷」の旧字体

戦前の日本の明朝体活字(以下、旧字体)での「遷」の字形について触れたい。現代の字形では右下の部分が「己」となっているが、この部分は旧字体ではほとんどの場合「巳」で表される。ただし、旧字体では「⺋」とする字形もある。なお、旧字体ではこの字に限らず、しんにょうの点の数は普通2つであり、その点でも現代の字形と異なっている。

(1)は現代の字形であり、右下の部分は「己」で、しんにょうの点の数は1つである。(2)は旧字体でよく使われた字形であり、右下の部分は「巳」で、しんにょうの点の数は2つである。(3)は旧字体でたまに使われた字形であり、右下の部分は「⺋」で、しんにょうの点の数は2つである。このうち、(2)は『康煕字典』の字体と同じである。
(1)は現代の字形であり、右下の部分は「己」で、しんにょうの点の数は1つである。(2)は旧字体でよく使われた字形であり、右下の部分は「巳」で、しんにょうの点の数は2つである。(3)は旧字体でたまに使われた字形であり、右下の部分は「⺋」で、しんにょうの点の数は2つである。このうち、(2)は『康煕字典』の字体と同じである。

「巳」とするもの

『康煕字典』では、「遷」は右下を「巳」にする字体で記されている。そして、旧字体では「巳」とする形が最もよく用いられた。以下、実例を2つ挙げよう。

「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例。
「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例 [1]
「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例。
「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例 [2]

「⺋」とするもの

旧字体で右下の部分を「⺋」とする「遷」はあまり多くないが、全く使われていないわけではない。実例を2つ挙げよう。

「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例。
「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例 [3]
「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例。
「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例 [4]

現代のコンピュータで「遷」の旧字体を使い分ける

Unicodeでは、異体字セレクタを用いることで、「遷」の旧字体を出すことができる。U+9077 U+E0106 ならば、「巳」とする字形の「遷󠄆」になる。また、U+4E39 U+E0102 ならば、「⺋」とする字形の「遷󠄂」になる。

Adobe Japan1-6では、旧字体でしばしば用いられる「巳」とする字形が収録されていない。ただし、「⺋」とする字形ならば、CID+20231で出てくる。また、「覀」を「襾」の形にした異体字ならば、CID+13888で「巳」とする字形が、CID+20232で「⺋」とする字形を出すことができる。

Adobe Japan1-6における「遷」のさまざまな字体。旧字体でよく使われた右下を「巳」として右上を「覀」にした字形を用いることはできない。
Adobe Japan1-6における「遷」のさまざまな字体。旧字体でよく使われた右下を「巳」として右上を「覀」にした字形を用いることはできない。
脚注
  1. 渡辺松茂.(1891). 『万国小歴史:試験答案』大阪:積善館. p.301より。 []
  2. 山田孝雄.(1938). 『五十音図の歴史』東京:宝文館. p.204より。 []
  3. 高橋立吉.(1909). 『福沢諭吉言行録』東京:内外出版協会. p.79より。 []
  4. 岡崎文夫.(1944). 『古代支那史要』東京:弘文堂書房. p.19より。 []