「遷」の旧字体
戦前の日本の明朝体活字(以下、旧字体)での「遷」の字形について触れたい。現代の字形では右下の部分が「己」となっているが、この部分は旧字体ではほとんどの場合「巳」で表される。ただし、旧字体では「⺋」とする字形もある。なお、旧字体ではこの字に限らず、しんにょうの点の数は普通2つであり、その点でも現代の字形と異なっている。
![(1)は現代の字形であり、右下の部分は「己」で、しんにょうの点の数は1つである。(2)は旧字体でよく使われた字形であり、右下の部分は「巳」で、しんにょうの点の数は2つである。(3)は旧字体でたまに使われた字形であり、右下の部分は「⺋」で、しんにょうの点の数は2つである。このうち、(2)は『康煕字典』の字体と同じである。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-forms.png)
「巳」とするもの
『康煕字典』では、「遷」は右下を「巳」にする字体で記されている。そして、旧字体では「巳」とする形が最もよく用いられた。以下、実例を2つ挙げよう。
![「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-example-1891.png)
![「遷」の右下の部分を「巳」にする活字の例。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-example-1938.png)
「⺋」とするもの
旧字体で右下の部分を「⺋」とする「遷」はあまり多くないが、全く使われていないわけではない。実例を2つ挙げよう。
![「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-example-1909.png)
![「遷」の右下の部分を「⺋」にする活字の例。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-example-1944.png)
現代のコンピュータで「遷」の旧字体を使い分ける
Unicodeでは、異体字セレクタを用いることで、「遷」の旧字体を出すことができる。U+9077 U+E0106 ならば、「巳」とする字形の「遷󠄆」になる。また、U+4E39 U+E0102 ならば、「⺋」とする字形の「遷󠄂」になる。
Adobe Japan1-6では、旧字体でしばしば用いられる「巳」とする字形が収録されていない。ただし、「⺋」とする字形ならば、CID+20231で出てくる。また、「覀」を「襾」の形にした異体字ならば、CID+13888で「巳」とする字形が、CID+20232で「⺋」とする字形を出すことができる。
![Adobe Japan1-6における「遷」のさまざまな字体。旧字体でよく使われた右下を「巳」として右上を「覀」にした字形を用いることはできない。](http://id.fnshr.info/wp-content/uploads/sites/2/2015/10/sen-adobe-japan1-6.png)
脚注