はじめに
2015年1月17日(土)に、平成27年度の大学入試センター試験の1日目が行われた。この日に出題された「倫理」の第1問の問4 [1] において、棒グラフが2つ示されている。この棒グラフは、棒がゼロから始まっておらず、40%から始まっている。これでは棒グラフとして不適切である。
問題があるグラフは2つあるのだが、そのうち1つを先に挙げておこう。

後に説明するように、棒グラフは棒をゼロから始めないと、分量を適切に表すことができない。よって、上に引用したグラフは、不適切なのである。
棒グラフはゼロから始める
棒グラフは、長さをもって量を示すグラフである [3] 。棒が長ければ長いほど量が多くなり、短ければ短いほど量が少なくなる。
棒グラフを描く際に重要なことは、表したい量と棒の長さが比例していなくてはならないということである。例えば、10キログラムという量をグラフ上で1センチメートルの棒で示したとしよう。このとき、このグラフに、20キログラムの量を表したければ、2センチメートルの棒で、50キログラムの量を表したければ、5センチメートルの棒を描かなくてはならない。こうすると、10キログラム、20キログラム、50キログラムという1:2:5の関係が、棒グラフ上の棒の長さでも1:2:5になる。つまり、元々の分量の比が、グラフ上でも同じ比として示されるのが棒グラフの特徴なのだ。当たり前のように思われるかもしれないが、これが棒グラフを描くときに重要なことになる。
そして、元々の分量の比とグラフ上の比を同じにしたければ、棒をゼロから始めなくてはならない。以下の棒をゼロから始めている正しい棒グラフを見てもらいたい。

この棒グラフは、左側の棒が80という量を、右側の棒が90という量を表している。両者の量の比は8:9だ。ここで、棒の長さの比も8:9になっている。こうなっているのは、棒をゼロから始めているからなのだ。
棒をゼロ以外のところから始めたとしたらどうなるだろうか。以下の棒グラフは、棒グラフを70から始めた正しくない例だ。

ここでも、左側の棒が80という量を、右側の棒が90という量を表しているから、両者の量の比は本来8:9である。しかし、棒を70から始めてしまっているために、棒の長さの比が1:2になってしまっている。これでは、量の比と長さの比が合わなくなってしまうのだ。また、このグラフのように、棒をゼロ以外のところから始めると、差が誇張されてしまう。上記のグラフでは、右側が左側の2倍の分量があるように勘違いしてしまう可能性がある。実際には80と90なのでそこまで大きな違いはないにも関わらず、棒を始める位置を変えることで誇張が生まれてしまうのである。
センター試験での棒グラフの問題点
さて、センター試験の棒グラフの話をしよう。先に述べたように、平成27年度センター試験の倫理の第1問問4では、棒グラフが2つ出題されており、いずれも棒がゼロから始まっていない。
1つ目の棒グラフを再掲する。

この棒グラフは、本来以下のようにゼロから棒を始めるべきである。

また2つ目の問題のあるグラフを以下に引用する。

上記のグラフの一番左側の「小学校5・6年生」のところは、棒しか見なければ、2004年から2009年にかけて、「不安や悩みを抱えている者」が倍増したように思えてしまう。だが、これは棒が40から始まっているために誇張されているだけなのだ。
本来は棒をゼロから始めて、以下のように描くべきである。

他教科にもあった問題
ゼロから始まっていない棒グラフは、平成16年度センター試験の英語でも出されたことがある。

英語では、かつて棒グラフだけでなく、他種のグラフでも不適切なグラフがいくつも出されていた [7] 。しかし、最近は改善されたようで、不適切なグラフが出されなくなっているようである。
グラフを描くことはそれほど難しいことではなく、作問担当者が知っていれば何とかなる問題がほとんどである。英語のように改善が見られる科目もあるのだから、他の科目もがんばってほしいものである。
- なお、これと全く同じ問題が「倫理、政治・経済」にも出題されている。 [↩]
- 倫理 第1問 - 2015年度大学入試センター試験:朝日新聞デジタルより引用。 [↩]
- 専門的な話をすれば、棒グラフは尺度水準において、比例尺度となる変数を図示するためのグラフである。 [↩]
- 倫理 第1問 - 2015年度大学入試センター試験:朝日新聞デジタルより引用。 [↩]
- 倫理 第1問 - 2015年度大学入試センター試験:朝日新聞デジタルより引用。 [↩]
- 東進オンライン|2004年度センター試験(英語)より引用。 [↩]
- 吉田一. (2007). 「英語のセンター試験のグラフ問題を論評する」『数学セミナー』 46(12). [↩]