平成23年度センター試験の現代社会での円グラフ

概要
平成23年度のセンター試験の現代社会での円グラフに関する問題について批判的に検討する。この問題においては、円グラフの説明で、「データの構成内容や、全体における構成比を、最も分かりやすく示すことができる」と書かれている。しかし、実際のところ、円グラフは構成比などが、人間にとって非常に分かりづらいグラフであり、この説明は不適切である。

はじめに

2011年1月15日(土)と1月16日(日)に、平成23年度の大学入学者選抜大学入試センター試験が行われた。1日目の1月15日(土)に出題された現代社会では、第2問の問5でグラフに関わる問題があった。この問題は、ある事例をグラフ化するときに、折れ線グラフ・円グラフ・レーダーチャートのどれを選ぶのが良いかを選ばせるものである。

その問題では、円グラフの説明として、「データの構成内容や、全体における構成比を、最も分かりやすく示すことができる」と書かれている。この説明は不適切である。実際のところ、円グラフは構成比などが、人間にとって非常に分かりづらいグラフと知られている。点グラフなどを使った方が、よほど構成比が分かりやすいのだ。少なくとも、センター試験での「最も分かりやすく」という説明は、言い過ぎだ。

円グラフの特徴と問題点

円グラフというのは、要するに角度を利用して、比率を示すグラフである。例えば、角度が90度なら25%を示す。このため、円グラフを正確に読み取るには、角度を正確に読み取らなくてはならない。しかし、人間は角度を正確に読み取るのはそれほど得意ではない。このため、円グラフからは比率がどれだけあるのか、あるいはどの部分が大きいのかというのがすぐ分からない。

次の円グラフを見てもらえば、このことが更によく分かるだろう。以下の円グラフで、2番から4番までは、ほとんど違いがないように見える。

比率が分かりづらい円グラフの例
比率が分かりづらい円グラフの例

円グラフを使わず、棒グラフにしたほうが、よほど分かりやすい。以下の棒グラフは、先ほどの円グラフと全く同じ情報を表している。先ほどの円グラフと違って、棒グラフだと、2番から4番までで違いがあることがはっきり分かるだろう。

先述の円グラフと同等の棒グラフ。こちらの方が比率の差が分かりやすい。
先述の円グラフと同等の棒グラフ。こちらの方が比率の差が分かりやすい。

棒グラフを使った方が分かりやすいのはなぜだろうか。それは、人間が長さの違いに敏感であるためである。棒グラフは棒の長さで量を示すので、人間にとって分かりやすいグラフとなる。角度の違いは、長さの違いほど気にならないので、円グラフは棒グラフほど分かりやすくないのである。

センター試験での円グラフ

さて、センター試験の話に戻ろう。現代社会の第2問の問5では、以下の3つのグラフが挙げられている(以下の図は、日本経済新聞のウェブサイトの「大学入試速報2011」に掲載されている現代社会の問題[PDFファイル]から引用した)。

平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5での折れ線グラフ
平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5での折れ線グラフ

この、折れ線グラフの説明は適切かと思われる。

平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5での円グラフ
平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5での円グラフ

ここの円グラフの説明が不適切であることは既に述べたとおりである。つまり、円グラフは比率を分かりやすく書いた図ではないため、「最も分かりやすく」というのは言い過ぎだということだ。

平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5でのレーダーチャート
平成23年度センター試験の現代社会の第2問の問5でのレーダーチャート

もう1つのグラフはレーダーチャートである。これも本当に「最も分かりやすく示すことができる」のかは疑問であるが、円グラフほどは大きい問題ではないだろう。

実は、平成23年度のセンター試験の現代社会では、もう1箇所だけ円グラフが出されている問題がある。その問題は第3問の問5で、地方財政の歳入について描かれたグラフが掲載されている。以下に、そのグラフを挙げよう(以下の図は、日本経済新聞のウェブサイトの「大学入試速報2011」に掲載されている現代社会の問題[PDFファイル]から引用した)。

平成23年度センター試験の現代社会の第3問の問5の円グラフ

この円グラフでは、Aとされている部分が大きな部分を占めるということはすぐに分かる。しかし、B・C・地方債については、どれも同じぐらいの大きさに見える。じっと観察していると、Bの方がやや大きいことが分かるのだが、じっと見なくては分からないというのではグラフの意味がない。データをグラフにして図示するのだから、パッと見て分かるようでなければ困るのだ。

このグラフを読み解くもう1つのヒントとして、比率の大きい順に時計回りにデータを並べるということも考え得る。そうだとしたら、A、B、C、地方債の順で大きいのだろうと想像することができる。ただ、比率の大きい順に並べるというのは、いつも成り立つわけではない。実際には、比率の大きい順でない方法で並べることもある。実際、この円グラフでも、その他は地方債より大きいのに一番最後に回されている。どの順番で配置するかは、何らかの合理性があれば良いので、大きさにこだわる必要はないのだ。

グラフを出題することに関して

上で見てきたように、円グラフの説明はあまり適切ではなかった。しかし、データを整理・分析し、グラフにするというのは重要なスキルである。その点で、どのグラフにどのような特徴があるのかということを問うた今回の現代社会の問題設定は良かったと思う。

なお、『情報科授業ブログ』というブログの「センター試験の現代社会の問題で」という記事では、高校の情報科教員の立場から、この問題について簡単に触れている。

関連情報

以下の文献では、センター試験の英語の問題で出されたグラフが批判されている。

上記の文献は、かつて「吉田 (2007) センター試験の英語の問題で不適切なグラフが出題され続けている」というタイトルで記事にしたので、そちらも参考されたい。