大規模社会調査JGSSが回収率を上げるために取った方法

概要
大規模社会調査のJGSSでは、謝礼の半分を前渡ししたり、依頼状の宛名を手書きにしたりするなどの方法で回収率を上げようとした。

はじめに

何か調査をするときには、調査対象者から回答をどれだけ回収できるかが大きな問題になる。1万人に回答を依頼したとしても、その10%に当たる1000人からしか回答を回収できなかったとしたら、その調査結果が大いにゆがむこととなる。このため、調査をするときは、回収率を上げるように努める必要がある。

この記事では、日本国内で行われている大規模社会調査の1つJGSSが回収率を上げるために取った方法について、保田・宍戸・岩井 (2008) の報告をもとに紹介していきたい。

社会調査における回収率の低下とその問題

日本の社会調査においては、回収率が年々低下している。特に、2005年以降は回収率が大きく下がるようになった。

寉田 (2008) は、2005年に回収率が大きく下がった要因として、同年4月に全面施行された個人情報保護法と、同年に発生した世論調査における不正回答の問題を挙げている。前者について言えば、プライバシー意識の高まりなどにより回答を拒否する人が増えたということになる。後者については、2005年に実施された政府関係機関の世論調査において、本来の回答者でない人が回答するなどの不正回答が多く見られることがあった。調査員に対して、回収率を高くするための有形無形のプレッシャーがかかっており、それが不正なデータ作成につながっていたのだろう。このプレッシャーを除くために、世論調査の入札にあたって回収率70%を確保するという基準が除かれることになり、結果として回収率は低くなったのだ。

回収率が低いことは、問題となりうる。大概の場合、結果が偏ったものになってしまうのだ。

回答拒否などで回収率が低くなることは問題となりうる。
回答拒否などで回収率が低くなることは問題となりうる ((Pixabayよりgeralt氏のパブリックドメイン画像を使用。)) 。

多くの場合、回収率が低いときは、どの世代・性別でも回収率が低いというわけではない。世代・性別によっては回収率が高いのに、別の世代・性別では回収率が低いということが起きるのだ。例えば、老年の男性からはほとんど回収できたのに、若年の女性からはほとんど回収できなかったとしたとしよう。そうすると、この調査の結果は、実際の状況よりも、老年の男性の意見が強く反映されたものになってしまう。老年の男性の方に偏ったものになってしまうのだ ((こうした偏りを事後的に調整する統計的手段も存在するが、そもそもの偏りが大きければ調整があまり正確なものではなくなってしまう。)) 。

JGSSとその回収率

JGSS(Japanese General Social Surveys, 日本版総合的社会調査)は、大阪産業大学が中心となって実施している日本の大規模社会調査である。この JGSS において、2000年の調査 (JGSS-2000) から2005年の調査 (JGSS-2005) まで回収率は低下しつつあった。しかし、2006年の調査 (JGSS-2006) においては回収率が上昇した。保田ら (2008) に掲載されている数値によれば、公式回収率は JGSS-2000 で64.9%であったのが、JGSS-2005 で50.5% となり、JGSS-2006 では59.8% となっている。

JGSSが取った改善策

回収率を上げるために JGSS-2006 が取った改善策として、保田ら (2008) は以下のようなものを挙げている。

  • 謝礼の半額を前渡しする。
    • 調査実施前に500円の図書カードを渡し、実施協力後にさらに500円の図書カードを渡す。
    • 前渡しの際の名目として、依頼状には「なお、同封させていただいた図書カード(500 円分)は、突然の書状で心中をお騒がせしたお詫びとしてお納めください。」(保田ら,2008:132)と記したとのこと。
  • 依頼状の封筒に関する変更。
    • 大きなものにする。
    • 目立ちやすい記念切手を貼る。
    • 宛名を手書きにする。
  • 依頼状の文面の全面的な練り直し。
  • これまでの調査結果を紹介するリーフレットの添付。
  • 調査会社の営業担当者だけでなく、実務担当者から調査票の構成について助言を求める。

改善策がもたらした結果

保田ら (2008) によれば、これらの改善策をとった結果、JGSS-2006 では、JGSS-2005 に比べ、接触成功率は変わっていないものの、協力獲得率が上がった。つまり、上述の対策により、会えさえすれば、回収できる可能性が上がったようなのだ。

また、JGSS-2006 は JGSS-2005 に比べて、一旦接触に失敗したとしても、再び訪問を続けようとする訪問継続率が上がっている。これは、協力獲得率の向上により会えさえすれば協力が得られるであろうという感触を調査員が得たため、調査員が粘り強くなったためであると考えられている。

参考文献

  • 寉田知久.(2008). 「面接調査の現状と課題」『行動計量学』35(1), 5-16. DOI: 10.2333/jbhmk.35.5
  • 保田時男・宍戸邦章・岩井紀子.(2008). 「大規模調査の回収率改善のための調査員の行動把握」『理論と方法』 23(2), 129-136. DOI: 10.11218/ojjams.23.2_129

注釈