宮島達夫の業績

概要
日本語の語彙研究や計量日本語学研究で知られる宮島達夫の業績の紹介。

経歴

宮島達夫は、1931年に茨城県水海道町(現・常総市)に生まれた [1] 日本語学者であり、2015年12月5日に亡くなった [2]

宮島は長く国立国語研究所の所員を務めたのち、大阪大学教授、京都橘大学教授を務めた [3] 。1996年に『語彙論研究』で大阪大学から博士号が授与されている [4] 。宮島の主要な研究分野は日本語の古典・現代語の語彙であり、特に計量日本語学の面でさまざまな業績を残した。

日本語の計量研究

宮島達夫が、日本語を研究するに当たってしばしば用いた手法が、言語表現の使用頻度を数え上げるというものである。例えば、ある年代の雑誌にある語が何回使われているか調べた上で、別の年代の雑誌でその語が出てくる回数を調べ、その違いから言語の変化をたどるといったことが行われている。この言語表現の使用頻度の数え上げというのは、言語の計量研究において今でも基本になっている手法である。

現在では、言語表現の使用頻度を数え上げるのはさほど難しいことではない。大量のテキストが電子化されているし、特殊なコンピュータでなく一般的なパーソナルコンピュータでそうしたテキストを処理することが十分可能になっている。

しかし、1960-80年代にはそうした計算機資源は十分に存在していなかった。宮島はそのような時代において、地道に日本語の語彙の頻度を数え上げ、その結果をもとに日本語学に貢献した。

宮島が国立国語研究所の『雑誌用語の変遷』という報告をまとめた際には、雑誌から文章を抽出して、その中にある単語をカードに記すという手作業で処理している。この報告においては、集計済みの語彙表を最後にコンピュータに入力して分析するという段階においてのみ、コンピュータを使っている。それ以外は、コンピュータを使わずに地道に手作業をしていたのだ。

手で地道に数え上げるなどということは、今となっては児戯に属する話であろうが、こうした地道な取り組みが現在の計量日本語学研究の礎となっていることは覚えていても損はなかろう。

さて、宮島達夫は国立国語研究所において、さまざまな語彙調査を担当してきた。先ほど挙げた『雑誌用語の変遷』もその一例である。以下、宮島が国立国語研究所で携わった語彙調査について紹介しよう。ここで紹介する国立国語研究所の調査の報告はすべて「国立国語研究所報告」というページからダウンロードすることができる。

宮島が最も早い時期に携わった調査が、現代語の書き言葉の研究の一環として行われた雑誌での用語用字研究である。宮島は1959年からこの調査に参加し、1962年に第一分冊が刊行された『現代雑誌九十種の用語用字』という報告書に執筆者の1人として名を連ねている。この報告書は、1957年に刊行された90種類の雑誌においてどのような語が用いられているか、どのような漢字が用いられているかを調べたものである。

1972年に刊行された400ページ近い『動詞の意味・用法の記述的研究』という報告において、宮島は文学作品・論説文などの実際に書かれた日本語の文章から用例を収集し、さまざまな動詞の意味や用法について詳細に論じている。

また、宮島は、1987年に刊行された『雑誌用語の変遷』において、1906年から1976年までの雑誌『中央公論』の文章から8万語を抽出 [5] し、明治の終わりから第二次世界大戦をはさんで、昭和後期までの日本語がどのように変わってきたについて研究している。この研究が近代日本語の変化についてさまざまなことを明らかにした。例えば、文語体から口語体への変化、使用される語彙の変化、歴史的仮名遣いから現代仮名遣いへの変化などが扱われている。

古典の語彙表

宮島の業績を語るにあたって、種々の古典に関する語彙表の編纂を忘れてはならない。宮島は、日本の主要な古典文学作品において、どの語がどれだけ用いられているかをまとめ、以下の一連の書籍にまとめている。

晩年の『日本古典対照分類語彙表』においては、日本の主要な古典文学17作品 [6] において、どの語が何回使われているかという情報をまとめあげている。

脚注
  1. 笠間書院.(2015年12月15日).「宮島達夫氏(国立国語研究所名誉所員)逝去」http://kasamashoin.jp/2015/12/post_381.html []
  2. 朝日新聞デジタル.(2015年12月15日).「言語学者の宮島達夫さん死去」http://www.asahi.com/articles/ASHDHWMRHDHUCFI006.html []
  3. 笠間書院.(2015年12月15日).「宮島達夫氏(国立国語研究所名誉所員)逝去」http://kasamashoin.jp/2015/12/post_381.html []
  4. 宮島達夫.(1996). 「語彙論研究」『博士論文要旨集』大阪大学.http://hdl.handle.net/11094/40269 []
  5. 雑誌の文章すべてを見たのではなく、1906年、1916年、1926年と10年おきに、各年1万語ずつ抽出している。 []
  6. 万葉集、竹取物語、伊勢物語、古今和歌集、土左日記、後撰和歌集、蜻蛉日記、枕草子、源氏物語、紫式部日記、更級日記、大鏡、新古今和歌集、方丈記、宇治拾遺物語、平家物語、徒然草 []