Praatとは
Praatは、音声学に関する分析を行うためのフリーソフトである。オランダのアムステルダム大学のPaul Boersma氏とDavid Weenink氏によって開発されている。Windows版、Macintosh版、Linux版などが用意されており、いずれも公式ウェブサイトからダウンロードすることができる。なお、インターフェースはすべて英語で書かれている。
Praatは単純な音声分析だけでなく、音声合成、音声を提示する実験、簡単な統計分析なども可能である。このため、言語音の研究には必要不可欠なソフトとなっている。また、このソフトにはスクリプト機能も付いており、工夫次第でややこしい大量の処理を容易に行うことができる。
ただし、このソフトを使いこなすのはなかなか難しい。このソフトは、機能が豊富であるために、かえって複雑でとっつきにくいのだ。また、スクリプト機能はしっかりとしたプログラミングの知識がないと使うのが難しいだろう。
だから、Praatを本格的に使う前に、このソフトの入門や使い方をしっかりと読んでおくにこしたことはない。しっかり準備して取り組めば、難しいソフトでも何とかなるはずだ。というわけで、以下でPraatの入門や使い方が載っているウェブサイトを紹介しよう。
なお、付言すると、Praatは音声学用のソフトであるから、音声学の知識がないと使いこなすことができない。音声学をよく知らないという人は、Praatに触る前に、音声学について簡単で良いから勉強してみよう。例えば、以下の書籍などを読んでみよう。
- Ladefoged, P. & Johnson, K. (2011). A course in phonetics (6th ed.). Boston: Wadsworth, Cengage Learning.
公式ウェブサイトのマニュアル
まずは公式ウェブサイトに掲載されているマニュアルを読もう。なお、このマニュアルは、Praatにヘルプとして付属しているので、ネットがつながっていなくても、Praat自体から見ることができる。
公式マニュアルには、Praatに関することが一から百まで載っている。分からないことがあれば、まずはこれを見よう。ソフトの使い方を覚えるには、しっかりしたマニュアルを読むのが一番大事だ。なお、マニュアルはすべて英語で書かれている。
色々なことが書いてあってどこから読めば良いか分からなくなるかもしれないが、まずは、イントロから始めよう。最初から順を追ってイントロを読んでいけば、Praatの主要な機能をしっかりと覚えることができるだろう。
また、Praatのスクリプト機能を覚えたいという場合も、公式マニュアルが参考になる。公式マニュアルのスクリプト機能の説明の前半には、スクリプトを学ぶためのチュートリアルがあり、これを順を追って読むことによって、スクリプト機能の基礎を覚えることができる。また、スクリプト機能の説明の後半では、Praatのスクリプト機能の仕様が詳しく書いてあるので、自分でスクリプトを作っていて疑問に思う点があったら、ここを見直してみると良いだろう。
日本語で書かれた説明
公式ウェブサイトのマニュアルは非常に有用なのだが、英語で書かれているためにとっつきづらいという人もいるだろう。幸い日本語で書かれたPraatの入門や使い方の説明がいくつかあるので紹介したい。
北原真冬氏の手によるPraat Tutorialでは、以下のような内容が書かれている。
- Praatで録音する方法
- 録音した音声に対して分節を行って文字情報を加える方法
- 音声に対して、フォルマント・ピッチ・声質・周波数帯域ごとのエネルギーなどの分析を行う方法
- 音声刺激を作成する方法
- 分析の結果を印刷できる形にする方法
- LPCによるフォルマント再合成
- PSOLA再合成
- intensity調整
- 調音的合成
青井隼人氏による『Praat を用いた音響音声学的分析の初歩―増補改訂版』(PDF)は、音声学の入門的内容を含んだPraatの入門である。単音が、波形やフォルマントなどでどう視覚的に表現されるかということを中心に見ている。なお、練習問題も付いている。内容としては以下のようなものがある。
- Praatで録音する方法
- 波形の観察(VOTなど)
- フォルマントの分析、母音空間図の作成
- スペクトログラムの観察
川口裕司氏によるPraat の使い方―基本編―(PDF)は、ソフトウェアとしてのPraatの使い方に的を絞った説明である。内容としては、音声の編集方法、音声を分節して文字情報を加える方法、印刷できる形にする方法などが記されている。
宇都木昭氏によるPraat入門は、Praatの用法だけでなく、音声学に関する基礎的な話も掲載している。この入門は大学での授業のために作られたものであり、省略されているところがある。分析事例用の音声が収録されており、実際に音声をダウンロードして、それらの音の特徴を見ることもできる。また、より実践的な例として、日本語のアクセントとイントネーションの例が挙げられている。
その他のマニュアル
Using Praat for Linguistic Research
Will Styler氏によるUsing Praat for Linguistic Researchは、英語で書かれたPraatに関する全面的なマニュアルである。PDFで70ページと決して短くはないのだが、公式のマニュアルよりはあっさりしており、場所によっては公式のマニュアルより分かりやすいので、人によっては公式のマニュアルより読みやすいかもしれない。
Akustyk blog
Akustyk blogには、Praatのスクリプトの例が色々掲載されている。スクリプトを使いたいという人にとっては一読の価値がある。なお、説明は英語で書かれている。