英借文とは?
英文を書く時、一から書こうとするとかなり大変だが、他の人のしっかりとした英文を借りてくると楽だ。このように他人の英文を借りて自分なりの文を作っていくことを「英作文」ならぬ「英借文」と呼ぶ。今日は、こうした英借文に役立つウェブサイトをいくつか紹介したいと思う。
注意すべきこと
英借文に役立つウェブサイトを紹介する前に、英借文の際の注意点をいくつか述べておこう。英借文は便利な手法なのだが、使い方を誤るととんでもない英文ができあがってしまうのだ。
まず、借りてくる文が自然な英語であるとは限らない。見つけ出した表現はネイティブが書いた文であるとは限らないし、ネイティブが書いた文でもひどい文はある。また、文自体が自然であったとしても、文体が適切でないということもある。例えば、契約書の文面を作るときに、友達に書く手紙のようなフォーマルでない文から借りてきてしまったら、とても変なことになる。
こういった事態を防ぐためには、やはり自分自身の英語力を上げることが大事だ。漠然とした感じで良いから、「この文は不自然かもしれない」と自分で感知できるに越したことはない。英借文は、ある程度英語ができる人が少し楽をしたり、参考のために用いるべき技術なのだ。根本的に英語力がないという人は、英借文をする前に英語力を伸ばすべきである。
そうは言っても、そもそも、英語力が高ければ、英借文をしなくてもすらすら英文を書けるはずだ。多くの場合、英語力が十分でないから英借文に頼らざるをえないということになるのだろう。というわけで、英語力が十分でない人でも、ちゃんと英借文ができるような基準を挙げておこう。
- 似た例が少ない表現は避けよ。多くの人が使っている表現を使え。その表現が検索エンジンでヒット数が多いかどうか調べるだけでもやらないよりましだ。
- 信頼できそうな媒体の表現を参考にせよ。例えば、英米の有名な報道機関の英文などを見よ。逆に、雑多なネット掲示板の書き込みのようなところに出ている表現は避けよ。
- 複数の情報源を見よ。良さそうな表現をネット上で見つけたら、その表現を辞書で調べ直してみるなどせよ。
なお、英借文は、他人の英文を剽窃するという意味ではない。あくまでも他人の良い表現を参考にして自分なりの文章を書くのが、英借文の目的である。英語で自分の意見を書きなさいと言われたときに、他人の英文を丸写しするというのでは困る。
例文集
英借文に最も便利なサイトは、目的別に応用の利く例文をたくさん集めたサイトだ。「これから序論を書こうと思うけど、どう書けば良いかな」とか「先行事例はどう紹介すれば良いのかな」といった問題に答えてくれる。こうした例文集は、英文レターのための例文集といったように、分野を限ったものがほとんどである。
こうした例文集をいくつか紹介しよう。
- Academic Phrasebank
- 学術論文で使う英語表現の例を挙げている。良質で、量も豊富である。
- 説明は英語で書かれているが、それほど難しくはない。
- 「英語論文に使う表現文例集」のレジュメ
- こちらは説明が日本語で書かれている。
- 英借文ドットコム
- ビジネス向けの文が詳しい。
日本語から文を探す
英語でものを書くといっても、あらかじめ日本語で言いたいことが決まっているということも多いだろう。こうした場合、和英辞典を用いるのが、安直ではあるがやりやすいだろう。
ところで、普通の辞典は見出しが単語単位なので、文を探す [1] のが困難である。しかし、ウェブ上の辞書サイトには、例文を探しやすいものがいくつかある。
例えば、Weblio 英語例文検索やアルクの英辞郎で、検索すると見出し語だけでなく、例文も様々なものを出力してくれるので、英借文の際には色々と使いやすい。双方とも、普通の和英辞典よりもずっと多くのデータがあるので、「調べたがなかった」という状況が起きにくい。
Tatoebaという、単語ではなく、文を項目に立てた一風変わったオンライン辞典サイトもある。これも例文を探すのに役立つかもしれない。このサイトについては、以前「Tatoeba: 外国語の作文に役立つ例文界の Wikipedia」という記事を書いたので参照されたい。
また、Dualウィズダム用例コーパスという『ウィズダム英和辞典第2版』・『ウィズダム和英辞典』の用例を検索できるサイトもある。
注意すべきこと
日本語の考え方を引きずって英語に直訳してしまうと不自然な英語となってしまうことが多い。直訳するのではなく、あくまでも参考にするという立場で日本語から英文を探していきたい。私は日本語の考え方を引きずらないようにするために、和英辞典を引いた後に、英英辞典でチェックするという二段構えで確認している。つまり、まず日本語から対応する英語の表現を探し、見つかった英語表現をについて調べてそれが適切なのかチェックするのである。
検索エンジンを使って英語から文を探す
ある英語表現が実際にどう使われているかを調べる際に、もっとも楽な方法はGoogleなどの検索エンジンでウェブ上の用例を調べることである。例えば、“get rid of…”(…を取り除く)という英語表現を受け身にして “be got rid of” とすることはできるのかどうか、という疑問が浮かんだとする。このようなときは、検索欄に “be got rid of” と入れて検索ボタンを押すだけで、実際にウェブ上でどういう用例があるかを調べることができる [2] 。なお、検索したい表現は全体を引用符で囲んで検索しよう。さもないと、個々の単語をばらばらに検索してしまい、1つのまとまった表現として検索されない場合がある。
検索エンジンを使って英借文をする場合、多数のウェブページがヒットしたからといってそれで安心してはならない。多数のウェブページがヒットしても、その表現が自分の意図した意味と違う意味で用いられていたりすることがある。このため、ヒットしたページをいくつか自分で見て、自分の想定していた意味・用法と合致しているかを確認する必要がある。
EReKを活用する
Googleなどの検索エンジンの検索結果の表示は、英借文をする際には読み取りにくいものである。表現の当否を確認する際には、前後の文脈が分かりやすいほうが良いのだが、検索エンジンの検索結果の表示は必ずしもそうではないのである。
英語例文検索 EReKというウェブサイトでは、検索エンジン [3] の検索結果を英借文に適した形で出力できる。また、EReKでは、検索対象を教育機関 [4] のみに限定したり、ニュースサイトのみに限定したりすることができる。
例えば、EReKで “be got rid of” を検索した結果は、EReK – be got rid ofのようになる。なお、ここではニュースサイトに限定して用例を表示させている。
コーパスを使って英語から文を探す
コーパスというのは、言語の研究などのために、文章 [5] を大量に集めてデータベースにしたものである。本来は学術研究のために作られたものだが、文章を大量に集めてあるので、英借文のために文章を探すのにも向いている。
以下に挙げるコーパスはいずれもオンラインで検索できるので、Googleなどの検索エンジンにキーワードを入れるように、調べたい英語の表現を入れれば良い。そもそも調べたい英語の表現が思いつかなかった場合は、上に書いたように日本語から表現の見当をつければよい。日本語から見つけた英語表現を以下のコーパスで検索することで、それが実際はどのように使われているかを確かめることができる。
分野を特定したコーパス
特定分野の文章ばかり集めたコーパスは、その分野の文章を書く際の英借文に向いている。
学術的な文章
Scientext というコーパスは、生物学・医学関係の英文ばかりを収集している。総語数はおよそ1400万語である。検索インターフェースにくせがあるが、検索対象を序論部分に限るといったことができるので、この方面の学術論文を書く際には便利であろう。
PoEC: Partner of English Compositionは、計算言語学の英語論文の文章を収録しており、表現が実際に使われているかを検索できる。計算言語学のみと分野が極めて限定されているのが難点だが、品詞検索ができたり、類義語検索ができたりして、英借文をする際には有用である。
ニュースの文章
ニュースを自ら英語で書くということはあまりないだろうが、ニュースの文章は英語の中でも表現がはっきりしていることが多いので、ニュースの文章は英借文の際に役立つだろう。例えば、Time Magazine Corpusというアメリカのニュース雑誌“Time”の記事をコーパスにしたものがある。このコーパスは1920年代からのデータが含まれているので、検索範囲をしっかり設定しないと古くさい表現まで出てきてしまうので注意が必要である。
一般的なコーパス
分野を特に限定しない一般的なコーパスというものもある。分野が限定されていないため、自分の書きたいジャンルの文体の文が出てきてしまって面倒な側面がある。その一方で、分量も非常に多いので、多様な表現を見つけられる可能性がある。
一般的なコーパスの例として、イギリス英語の巨大コーパスであるBritish National Corpus、アメリカ英語の巨大コーパスであるCorpus of Contemporary American English [6] があり、いずれもウェブ上から検索可能である。双方とも様々なジャンルのテキストが収録されているので、適切な参考例を探し出したければ、分野を指定しておこう。例えば、学術論文を書くときの参考にしたいのなら、British National Corpusの場合、“SECTIONS”で“ACADEMIC”を指定すれば良い。
また、Google Books (American English) CorpusというGoogle Booksのデータをもとにしたコーパスもオンラインで検索可能である。ただし、これは古い時代の本のデータも含まれているので注意が必要である。
- もっとも、最近の電子辞書には「例文検索」機能が付いているものもある。こうした機能を活用するのも、英借文の際には重要である。 [↩]
- この場合、“be got rid of” だけでなく、“is got rid of” などもついでに調べておくと良いだろう。 [↩]
- EReK は、アメリカの Yahoo! のAPIを用いているとのことである。 [↩]
- 正確に言うと、.eduドメインのみを検索対象にしている。 [↩]
- 話を単純にするために、「文章」だけしか挙げなかったが、音声や動画を収集して作成したコーパスもある。 [↩]
- 双方とも、一応自然な英語ばかりを集めていることになっている。このため、本当に自然かどうか分からないウェブ上の文章よりは、自然さの保証がなされていると言えよう。 [↩]