統計の初心者のつまずきやすい点が分かる『統計的方法のしくみ』

概要
『統計的方法のしくみ』という本は、統計の初心者のつまずきやすい点をうまく説明してくれる。統計の教科書と併用する副読本として利用すると効果的であろう。

つまずきやすい点を解説した副読本

割とどんな分野でもそうだと思うが、初心者がつまずきやすい場所というものがある。例えば、小学校の算数の勉強を考えてみると、九九が覚えられないとか、割合の意味をうまく理解できないといったところがつまずきやすい場所になるだろう。

統計の勉強のときにも初心者がつまずきやすい場所がある。例えば、統計の教科書に出てくる Σ という記号の意味が分からなかったり、統計的仮説検定で用いられる「P 値」という概念を誤解したりすることがある。

今回紹介する『統計的方法のしくみ』という本は、こうした統計の初心者がつまずきやすいことについて解説をしている書籍である。

つまずきやすい場所をあらかじめ知っておくと効果的だ。
つまずきやすい場所をあらかじめ知っておくと効果的だ [1]

この本は、統計の初心者向け教科書と言うよりも、他の教科書と併用して統計に関する理解を深めるための副読本と言った方が良い。この本は、普通の教科書で勉強するときにつまずきやすい点を補ってくれるのだ。

例えば、統計の教科書で、平均の定義をするときに Σ という記号を使うことがある。教科書によってはこの記号の意味を読者がすでに知っているものとして扱う場合があり、意味を知らない人はここでつまずく可能性がある。しかし、『統計的方法のしくみ』を併用していれば、その第1章を読むことで Σ の意味を理解でき、つまずくことを防ぐことができる。

また、統計の教科書で、両側検定と片側検定があるということが触れられることがある。しかし、単に触れられるだけでは、両側検定と片側検定の使い分けを理解できないまま終わってしまう可能性がある。しかし、『統計的方法のしくみ』の第17章を読めば、どのようなときに片側検定を用いるべきかということが分かる。

私が見るところ、この本は統計のつまずきやすい点を実にうまく捉えることができており、統計を学ぶ人にとって非常に有用であると思う。

想定される読者層

この本が想定している読者は、統計を初めて学ぶ人から初中級程度に至った人までだ。つまり、統計に関する知識がほとんどゼロの状態から、分散分析や回帰分析といったやや高度な手法を学ぶ程度までを範囲としている。

統計の初心者は、統計の入門教科書を読むときにこの本を併用すれば、途中でつまずくことが少なくなるだろう。初心者に対しては、普通の教科書には載っていない細かなところまで教えてくれる。例えば、初心者は普通の統計の入門教科書を読んでいて 0.423 と .423 とで何が違うのかと混乱するがあるかもしれないが、この本の4ページではこの2つの小数が同じことを表していることをしっかり説明している [2]

また、統計の入門書を読んだり、統計の入門授業を取ったりして、何となく統計が分かったつもりになっている人も、この本を読めば自分の理解が不足していたことに気づかされるだろう

なお、統計のまったくの初心者がこの本を読む場合は、一気にこの本のすべてを理解する必要はないと思う。この本はやや高度なものも含んでいるので、そこまで一気に理解するのは難しい。初心者がこの本を読む場合、後半の難しいところはもっと実力が付いてから読んでもかまわないだろう。

扱われている内容

統計的方法のしくみ』は、副題に「正しく理解するための30の急所」とあるように、30個のつまずきやすい場所を扱っている。具体的に言うと、以下の30のことが扱われている。

このうち、第5章から第7章は、確率分布の数値表において、表にない数値を補間する方法について扱っている。この部分については、今となっては読まなくてもかまわないと思う。今は数値表を使わなくても、PCで簡単に必要な数値を計算できるからだ。

また、これら30のことの説明の前に、「序」として「統計的方法の勉強」というものがある。ここには、統計をどうやって勉強するとよいのかということが書かれているほか、統計の初心者が疑問に思いがちな点について説明され、合わせてこの本の読み方について説明されている。

脚注
  1. Pixabay より Clker-Free-Vector-Images のパブリックドメイン画像を使用。 []
  2. スペース節約のために、0.423 の小数点の前の0を省略して、.423 にしているに過ぎない。表す内容は同じである。 []