2013年の中国の一番の流行語は“中国夢”

概要
『咬文嚼字』という雑誌が選んだ中国の2013年の十大流行語について紹介する。一番の流行語として挙げられているのは習近平政権の“中国夢”というスローガンである。

はじめに

『咬文嚼字』誌が選んだ2013年の中国の一番の流行語は“中国夢”に。
『咬文嚼字』誌が選んだ2013年の中国の一番の流行語は“中国夢”に。

2013年12月18日、『咬文嚼字』という中国の雑誌 [1] が2013年の中国の十大流行語を発表した [2] 。一番の流行語に挙げられたのは、習近平国家主席が唱えた政治スローガンの“中国夢”であった。今日は、これらの流行語について紹介したい。

『咬文嚼字』誌が挙げた十大流行語は以下の通りである。

『咬文嚼字』誌による2013年中国十大流行語
日本の漢字での表記簡体字での表記ピンイン意味
中国夢中国梦Zhōngguó mèng中国の夢〔政治スローガン〕
倒逼倒逼dàobī逆方向からせまる
逆襲逆袭nìxí元々劣勢にあったものが優勢に転じること
光盤光盘guāngpán(レストランなどで)食べ物を残さないこと
土豪土豪tǔháo(教養のない)金持ち
女漢子女汉子nǚhànziおっさん女子
微XX微XXwēi XXマイクロ…
点賛点赞diǎn zàn「いいね!」をつける
大V大Vdà V多くの人にフォローされているアカウント
奇葩奇葩qípā風変わりなもの

なお、読者の便宜を考え、以下の説明で中国語は日本の字体で表してある。ただし、参考として簡体字も付してある。

中国の夢、そして政治の現実

『咬文嚼字』誌が挙げた2013年の一番の流行語は“中国夢”(簡体字:中国梦、ピンイン:Zhōngguó mèng)である。和訳すると「中国の夢」となる。これは、中国の習近平国家主席が唱えた政治スローガンである。習政権の目標と言っても良いだろう。

この中国の夢とはどんな夢か? 一言で言えば、「中華民族の偉大なる復興」(中華民族的偉大復興、簡体字:中华民族的伟大复兴、ピンイン:Zhōnghuá Mínzú de wěidà fùxīng)を目指すことである。それでは復興とは何か。その意味を知るには中国の歴史を振り返る必要がある。18世紀までの中国は、世界の超大国であった。しかし、19世紀以降、国勢が衰え、20世紀に入る頃には欧米や日本に全くかなわなくなっていた。その後、1970年代末以降の改革開放政策により、中国の国力は徐々に回復した。これを受けて、かつての超大国としての栄光を取り戻したいというのが、中華民族の偉大なる復興である。要するに、欧米や日本といった国々にバカにされない強い中国を作り上げるというのが、中国の夢である [3]

さて、スローガンを掲げるだけでは、政治は進まない。具体的な政策がないと動かないのだ。それでは、政策を語るときにどんな言葉が用いられるのだろうか。『咬文嚼字』誌が挙げた十大流行語の1つに“倒逼”(簡体字:倒逼、ピンイン:dàobī)という言葉がある。これは、中国の指導部が最近よく使う言葉で、「逆方向からせまる」という意味になる。逆というのは何かと言うと、下から上に行くとか、結果から原因を見ていくということを指す。現状を改革する際には、正攻法ではだめで、逆方向からせまる必要がある。それを踏まえて多用される言葉なのだ。

“倒逼”に似た言葉として、“逆襲”(簡体字:逆袭、ピンイン:nìxí)がある。これは日本語の「逆襲」に由来するもので、「元々劣勢にあったものが優勢に転じること」そ示す。また、「新しいものが古いものを倒す」といった意味で用いられることもある。

人々の生活

政治の話だけでなく、より中国の人々の生活に根付いた言葉も流行語として挙げられている。

まずは、食べ物を残さないようにする“光盤”(簡体字:光盘、ピンイン:guāngpán)という社会運動に関する言葉から説明しよう。普通の中国語辞典でを引くと、“光盤”は「(CDやDVDなどの)光ディスク」と出てくるはずだ。しかし、社会運動としての“光盤”は、光ディスクとは全く関係がなく、「(レストランなどで)食べ物を残さないこと」や「(レストランなどで)食べ物を残さずに持ち帰ること」を意味する。

中国の文化において宴席では食事を残す習慣がある。これは「食べ物を残してしまうほど満腹で、歓待に満足している」ということを意味している。とは言え、せっかく作った料理を残すことはもったいない。こうした無駄遣いをなくすために、食事を残さないようにしようという社会運動が“光盤”なのだ。なお、“光盤”のために“打包”(ピンイン:dǎ bāo)が広く行われている。“打包”とはレストランで残った食べ物を持ち帰ることを指す。

ところで、なぜ“光盤”が食べ残さないことを示すのだろうか? 中国語の“光”は動詞について「…しつくす」という意味を表すことがある。例えば、“用光”(ピンイン:yòngguāng)ならば「使いつくす」、“喝光”(ピンイン:hēguāng)ならば「飲みつくす」、“吃光”(ピンイン:chīguāng)ならば「食べつくす」という意味になる。ここからの類推で、“光”は「残さない」という意味になる。また“盤”は「皿」という意味だ。よって、“光盤”が食べ残さないという意味になるのだ。

次に新しいタイプの中国人を指す流行語を2つ紹介しよう。

土豪”(簡体字:土豪、ピンイン:tǔháo)は「(教養のない)金持ち」のことを指す。元来“土豪”は「地方で勢力のある一族」、なかんずく「貧民を圧迫する地主」を指した。しかし、この元来の意味を離れ、2013年には、教養や品格のない金持ちを指すようになった。また、マンガやアニメを大人買いする人やネットゲームで課金アイテムをたくさん買っている人を指すこともある。

ネット上では、“土豪我們做朋友吧”(簡体字:土豪我们做朋友吧、ピンイン:Tǔháo wǒmen zuò péngyǒu ba)という言葉がよく見られる。これは「土豪さん、友達になりましょうよ」という意味で、土豪の教養のなさは嫌いながらも、土豪の持つ金の魔力にあらがいがたいアンビバレントな気持ちを示している。諧謔と自虐が入り混じった言葉であると言えよう。

女漢子”(簡体字:女汉子、ピンイン:nǚhànzi)は、日本で言うと「おっさん女子」とか「オヤジギャル」に近い意味を持つ言葉である。“漢子”は「(男らしい)成人男性」という意味で、これに“女”がつくことで外見は女だが内面は男っぽい女性のことを指す。がさつな女性を指すこともあるし、竹を割ったような性格の女性を指すこともある。

微博とその周辺

中国には、微博(ウェイボー, weibo)というSNSサイトがある。これは中国で最も流行しているマイクロブログサービスである。Twitterのようなものと考えれば良い。中国本土からTwitterやFacebookへのアクセスは政治上の理由で制限されているため、中国独自のサービスである微博を使う人が多いのだ。

微博”というサイト名は、“小”(マイクロ)な“客”(ブログ)に由来している。微博に影響されたのか、“微”という字の後に何かをつける用法が流行している。例えば、“微新聞”(簡体字:微新闻、wēixīnwén)と言うと、百字程度にまとめられた短いニュースのことを指す。なお、中国語の“新聞”はニュースのことを指す。日本語の「新聞」(しんぶん)とは違うので注意が必要である [4] 。こうした“微XX”(簡体字:、ピンイン:wēi XX)も『咬文嚼字』誌の十大流行語として挙げられている。日本語だと「マイクロ…」とか「ミニ…」に相当するだろう。

他にも微博やネットメディアに関連する用語がいくつか2013年の十大流行語とされている。

点賛”(簡体字:点赞、ピンイン:diǎn zàn)は、SNSでの投稿に対して賛意や共感を示すことを指す。Facebookで「いいね!」をつけたり、Twitterで「お気に入り」に入れたりすることを想像してもらえればよい。微博などの中国のSNSには、“賛”というボタンがついていることが多く、このボタンを押すことで賛意や共感を示すことができる。

大V”(簡体字:大V、ピンイン:dà V)は、微博で、多くの人にフォローされているアカウントのことを指す。つまり、微博で多くの人が見ている対象のことを指すのだ。微博では、Twitterと同様に、有名人などが本人であることを認証している。認証されたアカウントには、Vというマークがつけられる。つまり、“V”は認証された (Verified) アカウントのことを指すわけだ。認証されたアカウントの中でも注目度の高い(=“大”)アカウントのことが“大V”と呼ばれる。となると、“V”は「認証された」(Verified) に由来すると考えられるが、「重要人物」(VIP) に由来するという異説もある。

奇葩”(簡体字:奇葩、ピンイン:qípā)は「風変わりなもの」を指す [5] 。この用法はネットスラングで、風変わりなものを賞賛するというよりは、揶揄したり馬鹿にしたりするニュアンスが含まれている。「わけがわからないよ」という皮肉が含まれている面もある。

脚注
  1. 『咬文嚼字』(Yǎowénjiáozì, こうぶんしゃくじ)は、言葉の使い方をテーマにした雑誌である。漢字の誤りや語句の誤用に対するツッコミに定評がある。 []
  2. IBTimes 中文网. (2013年12月19日). 《咬文嚼字》评“2013年十大流行语” 女汉子入榜中国梦居首 Retrieved from http://www.ibtimes.com.cn/articles/34449/20131219/42501.htm []
  3. 中国の夢に関する日本語の解説記事として、2013年4月23日付のNHKのワールドWaveTonightの「“中国の夢”から見える中国の深層」というものがある。中国の夢の理念と実相が分かりやすくまとめられている。 []
  4. 日本語の「新聞」に対応する中国語の単語は、“報紙”(簡体字:报纸、bàozhǐ)である。 []
  5. この単語は元来「珍しい花」のことを指し、そこから比喩的に「優れた文学作品」という意味でも用いられていた。 []