テスト理論における正答率と通過率

概要
正答率と通過率は同義語として用いられるのが普通である。ただし、通過率に正答率とは別の意味を持たせる場合もある。

正答率とは

ある項目の正答率とは、その項目を受験した人のうち、正答した人の割合を指す。例えば、100人が受験した項目で、42人が正答した場合、その項目の正答率は42%になる。

ここでの「項目」 (item) とは、個々の問題のことを指すと考えてよい。

正答率を求める際の注意点

ただし、何をもって「受験した人」とし、何をもって「正答した人」とするのかはそれほど簡単に決められるものではない。正答率を求めるに当たっては以下の点に気を付けなくてはならない。

通過率は正答率の同義語

さて、テストに関する文章を読んでいると、「通過率」という言葉が出てくることもある。これは、正答率の同義語である。

実際、テスト理論に関する書籍を見ると、通過率が正答率と同じように扱われている。

正答率は「通過率」と呼ばれる場合もあります.

光永 (2017:145)

通過率は正答率とも呼ばれる.

豊田 (2012:10)

正答率は,最も基本的な項目統計量であり,(中略)通過率ということもある.

荘島 (2010:40)

正答率は通過率とか困難度(この場合は値が小さい方が困難度が高い)とも呼ばれます。

日本テスト学会 (2007:196)

通過率を違った意味で用いる場合

ただし、実務上、通過率を正答率と違った意味で用いる場合もある

例えば、黒上ら (2015) は、「情報活用能力調査」を分析する際に、正答の割合を正答率とする一方、正答および準正答の割合を通過率としている。

また、平成24年度岡山県学力・学習状況調査の報告書でも同様に正答率と通過率を使い分けている。すなわち、正答率は正答の割合であり、通過率は正答および準正答の割合である。

このほか、埼玉県教育委員会は埼玉県の公立高校入試の学力検査を分析するに当たって、正答率とは別に「通過率」を計算している。例えば、「平成31年度 埼玉県公立高等学校入学者選抜 学力検査結果について」の国語の部分では、通過率を「得点計∕(人数×配点)」としている。これは、ある項目で満点を取った場合(=正答)だけでなく、部分点を取った場合(=一部正答)も含めて考えている。単純に10点満点の項目があったとしよう。そして、この項目を100人が受験し、そのうち30人が満点の10点をとって正答となり、別の50人が5点だけとって一部正答となり、残りの20人が0点で誤答となったとしよう。このとき、得点の合計は 30 × 10 + 50 × 5 + 20 × 0 = 550になる。そして、人数×配点は100 × 10 = 1000になるから、通過率は550∕1000 = 55%となる。ここでの通過率の計算に当たっては、正答だった人数と一部正答だった人数を単純に足しあわせるのではなく、一部正答だった人の重みを減らしているのである。

英語では何というか

英語では正答率のことを P-value と言うことがある。ただ、これは統計的仮説検定のときに用いられる P-value(P値)とまぎらわしいので、私個人としては好きではない。

単に item difficulty と言うこともある。これは項目困難度を意味する言葉であるが、単に正答率を示すために用いられることもある。また、item difficulty の代わりに item facility (IF) と言うこともある。これは直訳すると項目容易度になる。

item facilityという言葉が使われるのは、分かりやすさのためだろう。正答率というものは値が大きい項目ほど簡単になる。ここで、仮に正答率を容易度 (facility) に置き換えた場合、「容易度の値が大きいほど簡単になる」というすっきりした表現になる。しかし、これを困難度 (difficulty) に置き換えると、「困難度の値が大きいほど簡単になる」となって訳が分からなくなってしまう。とはいえ、実際には item difficulty の方が良く使われているように思われる。

参考文献