はじめに
今日は、統計について相談するときに心がけておきたいことを3つ紹介したいと思う。これらのことを心がけておくと、統計についての相談がうまくいき、良い結果が得られる可能性が高くなるだろう。
今回紹介するのは以下の3点である。詳細については後ほど説明する。
- 相談は早めに行う
- 統計は魔法の杖でないと知る
- 情報の出し惜しみをしない
これら3点は、私が統計に関する相談を通じて得た経験則である。私は統計について特に詳しいというわけではないのだが、色々な人から統計の使用について相談を持ちかけられることがある。相談の中にはうまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもある。成功の原因あるいは失敗の原因は個別の案件ごとに違うのだが、うまくいった相談の場合、相談者が上に掲げた3点をしっかり心がけていたことが多かった。
これら3点を心がければ、必ず統計に関する相談がうまくいくというわけではない。だが、うまくいく可能性は高くなると思う。
相談は早めに行う
相談は早めに行おう。相談に時間的な余裕があれば、相談がうまくいく可能性が高くなる。例えば、最初に考えていた統計手法がだめだということが分かったとしても、時間が十分にあれば別の手法を試してみることもできる。
時間が十分にあれば、相談を持ちかける側も相談相手に自分のやりたいことをじっくり説明することができる。相談を受ける側も、しっかりと考えて適切な助言をすることができる。
逆に、ぎりぎりになって相談を持ちかけた場合は、うまくいかない。相談を受ける側は、短い時間で相談内容を理解して返答しなくてはならないから、どうしても勘違いをしたり、間違いを犯したりしてしまう。時間的余裕があれば選択肢は増えるので、早めに相談するということを心がけよう。
データを収集する前から相談する
何かデータを解析する場合は、実際にデータを収集する前に、統計について詳しい人に相談することが望ましい。この段階で相談しておくと、データの集め方などについても詳しい助言を得られるからだ。データの集め方を考えることも統計の仕事の1つである。
統計についてよく知らない人は、データを収集しおわってはじめて統計の相談をしてくることが多い。しかし、この段階ではじめて相談しにいくようでは、すでに手遅れになっている可能性が高い。実験をするにせよ、何か調査をするにせよ、データを収集するには、時間的・金銭的なコストがかかる。データを収集し終えてから、そのデータがだめだということに気づいては、時間や金銭をドブに捨てるようなものである。このような無駄を出さないためにも、早めに相談することを心がけよう。
一度の相談で解決することはなかなかない
一度の相談で解決すれば楽なものだが、実際にはそういう状況はなかなかない。何度か相談を繰り返すことで、やっと話が見えてくるということもある。また、様々な統計手法を試行錯誤してみるということが必要になる場合もある。
このため、一度の相談で解決すると思っていると、時間が足りなくなる場合がある。だが、早めに相談しておけば、時間が不足するということもなくなる。繰り返しとなるが、早めの相談が重要だ。
統計は魔法の杖でないと知る
統計を使うことで問題が何でも解決するというわけではない。どんなときも統計でうまくいくというわけではない。統計は魔法の杖ではないのだ。適切な条件で適切な手法を用いて、やっとはじめてうまくいくものなのだ。これを知らずに統計に対して、過剰な期待を持っても、相談相手と対立するだけだろう。
一部の人は、統計が魔法の杖でないということを知らないで、統計に対して過大な期待を抱いている。こうした人は、データを集めて統計的解析を行えば何か良い結果が出てくると考えているのだ。しかし、それは誤りである。
一つたとえ話をしてみよう。宝石の加工職人に、そこらに転がっているクズ石を渡して、これを輝く宝石にしてくださいと言っても笑われるだけだろう。輝く宝石を手に入れるためには、しかるべき原石を加工しなくてはならない。クズ石をいくら磨いても宝石にはならないのだ。もしクズ石を渡して宝石になると思っている人がいたら、その人は相当の世間知らずだ。
しかし、悲しいことに、クズ石のようなデータを渡して、ここから統計を使って、輝かしい宝石のような成果を出してくださいと相談を持ちかける人がいるのである。
「ねぇねぇ、これ、統計パワーでパパッと宝石にしちゃってくださいよ。」
「ああ、これはクズ石だから、どうやっても宝石になりませんね。」
「ええっ? 統計の力でなんとか宝石になるでしょう? なんとかしてくださいよ。」
宝石の加工職人がクズ石を宝石にできないのと同様に、統計に詳しい人もクズ石のようなデータから宝石のような成果をだすことはできないのである。
魔法使いならば、クズ石を宝石にすることができるかもしれない。だが、統計は魔法の杖ではない。だから、統計をいくら使っても、むりやり良い結果を得ることはできないのだ。もし、どんなデータからも良い結果を出せるという人がいたとしたら、その人は統計家ではなく、魔法使いかペテン師だろう。そして、多くの場合、魔法使いでなくペテン師である。
繰り返しとなるが、統計は魔法の杖ではない。だが、しっかりとした原石を用意すれば、美しい宝石を取り出すことができるだけの力はある。
情報の出し惜しみをしない
自分のやっていることの全体像を見せずに、統計について相談を持ちかける人がいるが、こういうことはよろしくない。情報の出し惜しみをせず、全体像を見せた上で相談した方が良い。
何かを分析するときに、統計を使わなくてはならないところがごく一部しかないということがある。だから、統計に関する部分だけ見せれば足りると思うかもしれない。だが、全体像が見えないと、統計の使い方が適切かどうか判断できない場合もある。全体像が見えると色々とできることは増える。また、そもそもあなたが統計が必要でないと思った部分が、実は統計げ必要な部分であるかもしれない。
また1つたとえ話をしよう。あなたが何か大きな機械を作っているとしよう。その制作過程の中で、ある部品の取り付け方がよく分からなかったとする。そして、取り付け方に詳しい人に相談することになったとしよう。このときに、相談相手に問題の部品だけ見せて「この部品はどう取り付ければ良いでしょうか?」と聞いても、相手はうまく答えられないだろう。機械の全体像を見せずに、部品というごく一部しか見せていないからだ。相手は、その部品をどういう機械の中で使うのか、何のために使うのかが分からなければ判断できない。もちろん、場合によっては、部品を見ただけで分かることもあるだろうが、いつもそうであると思わない方が良い。
統計に関しても同じようなことが言える。一部を見て判断できる場合もあるが、判断できない場合もある。情報の出し惜しみをせず、全体像をうまく示すことが大事だ。もちろん、正確かつ分かりやすく全体像を示すことは容易ではない。しかし、できる範囲で全体像を説明しておけば、あとでかなり楽になるはずである。
相手はあなたの専門分野に詳しいわけではない
あなたの相談相手は統計については詳しいかもしれないが、あなたの専門分野について詳しいわけではない [1] 。あなたが統計を使用しようと考えている問題について、深く知っているわけではないということに注意しよう。
例えば、言語学者が自分の研究について相談する際に、いきなり「オーストロネシア語族の移住の過程を調べるために、クラスター分析をしたんですけど、これあってますか?」と言っても、相談を受ける人が言語学者でない限り質問の意図が理解できないだろう。「おーとろめしあごぞく? 大トロ飯屋? もしかしてマグロ丼について?」と思われてしまっては大変だ。必要とあれば、自分の専門分野の用語についてしっかり説明しないといけない。
あるいは化粧品会社のマーケティング担当者が、化粧品の売り上げのデータを分析するために、統計の専門家に相談したとしよう。相談を持ちかけたマーケティング担当者は、男性も女性と同様に化粧品を買うことがあると知っている。しかし、統計の専門家の方は、男性が化粧品を買うことはないと思い込んでいたとしよう。すると、統計の専門家は、(統計的な根拠があるわけではなくて)自分の思い込みのせいで、「男性のデータの分析は不要なんじゃないですか」と助言してしまうかもしれない。
その分野では当たり前のことでも相手にはわからないことがあるのだ。「これは当たり前だからわざわざ伝えなくても問題ないだろう」と思わずに、適宜知っているかどうか確認した方が良いのだ。
まとめ
以上、統計について相談するときに心がけておきたいこととして、3つのことについて説明した。これらのことを心がければ、必ず統計に関する相談がうまく行くというわけではないが、相談が成功する可能性が少しは高まるはずだ。
- 同じ専門分野の人で統計にも詳しいという人がいれば良いのだが、そういう人はなかなかいないものだ。もしそういう人がいたら、ぜひ大事につきあっていこう。 [↩]