“改恶”は日本語の「改悪」と方向が違う
中国語に “改恶” (gǎiè) という単語がある。繁体字で書けば、“改惡”だ。これは字面こそ同じものの、一般には日本語の「改悪」と意味が違うので注意が必要だ。
日本語では「改悪」は普通は「悪い方向に改める」という意味になる。しかし、中国語の“改恶” (gǎiè) は普通はそうはならない。「悪しきを改める」ということで、結局の所「良い方向に改める」という意味になる [1] 。
例えば、1959年の中華人民共和国主席特赦令 [2] では、以下のように“改恶”という言葉が用いられている。ここでは犯罪人が共産党による改造を経て、過去の悪事を改めて善い道に進んだという流れで“改恶”が用いられているのである。
なお、“改恶”を単独で用いることはあまりないようで、上の用例のように“改恶从善” (ɡǎiè-cóngshàn) と言ったり、“改惡向善” (ɡǎiè-xiànɡshàn) や “改惡行善” (ɡǎiè-xíngshàn) と言ったりすることが普通であると思われる。いずれも悪しきを改めて善い方向に進むことを示している。
古典中国語の場合
「良い方向に改める」という意味になるのは、古典中国語(漢文)でも同じだ。
『礼記』の「中庸」に“動則變”(動けば則ち変ず)という文言がある。これに対する鄭玄の注に“變、改惡爲善也”(変ずるは、悪しきを改めて善を為すことなり)とある。ここでの“改惡”は「悪しきを改める」ということで、良い方向になることを示すのである。
また、『後漢書』の「孔融伝」に載っている孔融の建議では“漢開改惡之路、凡為此也。”とある。ここでは、肉刑 [3] を漢(の文帝)が止めさせたことについて、肉刑という悪しきことを改めたと表現しているのである。
「悪い方向に改める」という意味になる場合も
ただ、“改恶”が日本語と同様に「悪い方向に改める」という意味になる場合も見られる。
次に引用する文は、台湾(中華民国)の労働者保険年金の制度変更に関するものである。
この文章の書き手は、制度変更に反対する立場の人であり、労働者保険年金が悪い方向に改められることを指摘しているのである。
中国語で「悪い方向に改める」と言いたい場合
もし日本語の「改悪」のように「悪い方向に改める」ということを言いたければ、“改坏” (gǎihuài) とすればよい。
日本語の「改悪」を中国語で“改坏”と表現している例を見てみよう。次は、安倍政権が憲法改悪を進めていると日本共産党の志位委員長が述べたことを報じた記事の一説である。
このように日本語の「改悪」が中国語では“改坏”に置き換えられているのである。