仄声が多い漢数字
漢数字のうち、「三」と「千」は平声であるが、それ以外は仄声になる。つまり、「一」、「二」、「両」、「四」、「五」、「六」、「七」、「八」、「九」、「十」、「廿」、「百」、「万」、「億」はことごとく仄声である。
このことを知っていると、対句を作るとき便利である。対を作るときには、平仄の規則の都合上、一方を平声にし、もう一方を仄声にせざるをえないことがある。数詞で対を作るときに、一方を平声にしたければ、「三」か「千」を選ばざるをえないのである。
実例
実際の対句の例を見てみよう。白居易の七言律詩「餘杭形勝」の頷聯 [1] は、以下のようになっている。
なお、白丸(○)は平声であることを、黒丸(●)は仄声であることを示す。この対句では、以下のような対応関係が成り立っている。
- 遶-拂:動詞
- 郭-城:似た意味の名詞
- 荷花-松樹:植物
- 三十-一千:数詞
- 里-株:助数詞
「三十」と「一千」という数詞が対になっていることに注目しよう。そして、「十」と「千」の平仄がちょうど逆になっていることに気をつけよう。
律詩を作るときには、第3句の第6字と第4句の第6字の平仄は逆になっていなくてはならない。つまり、この白居易の詩の例で言うと、第3句の第6字「十」と、第4句の第6字「千」の平仄は逆になっていなくてはならない。実際、「十」は仄声で、「千」は平声であるから平仄は逆になっている。
ここで注意したいのが、「千」の代わりに「百」や「万」といった数詞を入れることができないということだ。「百」や「万」は仄声なので平仄が逆にならないのだ。
仮に、白居易が見た松の樹が九百株しかなかったとしよう。その場合、事実を反映して第4句を「拂城松樹九百株」とすることができるだろうか。答えは、「できない」である。平仄の規則を守るためには、第4句の第6字を平声にしないといけないが、「百」は仄声であるため、当てはまらないのだ。だから、たとえ九百株しかなかったとしても、平仄のつじつまを合わせるには、「一千株」とせざるを得ないのである。
もう1つ例を見てみよう。以下は、白居易の七言律詩「酬微之開拆新楼初畢相報末聯見戯之作」の頷聯である。
ここでは、以下のような対応関係が成り立っている。
- 南-東:方角
- 臨-対:似た意味の動詞
- 贍部-蓬宮:場所
- 三千-十二:数詞
- 界-層:名詞
ここでも「三千」と「十二」の平仄は逆になっている。ちなみに、ここの対句では方角の対も見られるが、方角は「東」・「西」・「南」が平声で、「北」だけが仄声である。
補足
漢数字というわけではないが、「双」という字も平声であるので、「三」と「千」以外の漢数字との間で対を作るときには便利である。
- 律詩は8個の句からなるが、そのうち第3句と第4句のことを合わせて頷聯という。律詩では、頷聯の2つの句が対句になるようにする。 [↩]