「ジャージ」のアクセント

概要
衣類の「ジャージ」の発音に当たっては、平板型アクセントの場合と頭高型アクセントの場合がある。

はじめに

ジャージのズボン
ジャージのズボン [1]

2015年の末に、日本のある芸人が女子高生の制服などを盗んだかどで、逮捕される事件があった。その事件に関する報道で、容疑者が盗みに入ったときは目立たないようにジャージを着ていたという説明があった。

この報道において、テレビ局によって「ジャージ」のアクセントが違うことが気になった。「ジャージ」を平板型 で発音しているアナウンサーがいた一方、頭高型で発音しているアナウンサーもいたのだ。

以下、衣類の「ジャージ」のアクセントについて、あまりまとまってはいないものの、情報を色々と記しておきたい。

アクセントによる音の高低の違い

平板型・頭高型それぞれの音の高低は、以下のようになる。

平板型の場合

「ジャージ(を)」を平板型で発音する場合は、音の高低は LHH(H) となる。「めだか(を)」と同じアクセントになる。

頭高型の場合

「ジャージ(を)」を頭高型で発音する場合は、音の高低は HLL(L) となる。「あさひ(を)」と同じアクセントになる。

アクセント辞典の記述

日本語のアクセント辞典においては、「ジャージ」のアクセントは以下のようになっている。

18年ぶりの大改訂となる2016年に出版された『NHK発音アクセント新辞典』(NHK放送文化研究所〔編〕)では、「ジャージ」のアクセントは、平板型で掲載されている。

これに対して、2014年に出版された『新明解日本語アクセント辞典第2版』では、「ジャージ」のアクセントとして頭高型が挙げられている。

テレビ局の報道での実例

冒頭に挙げた2015年の末にあった盗難事件について、日本の各テレビ局の報道では、「ジャージ」を以下のようなアクセントで発音していた。

非公式なアンケートの結果

2015年末に、Twitter のアンケート機能を使って、「ジャージ(を)」のアクセントを聞いたところ、平板型と答えた人が圧倒的に多かった。もちろん、これは、どんな人が答えているか分からないし、しっかりとしたアンケートではないから、そのまま信用するわけにはいかないが。

多分、もともと「ジャージ」は頭高型で発音されていたことが多く、放送局もその 頭高型アクセントを採用していたのが、だんだんと一般人の発音が平板型に変わっていったのだろう。そして、2015年末の段階で、NHKは頭高型アクセントという古い形を保っていたのが、2016年のアクセントの改訂で、一般社会に合わせてNHKも平板型に変えていったというところじゃないかと思う。ここのところ、もっとちゃんと資料を調べないと分からないところなので、断定はしないでおく。

補遺:衣服は「ジャージ」か「ジャージー」か

先に挙げたFNNニュースの記事は、「「キンコメ」高橋容疑者、「ジャージーなら目立たないと思った」」というタイトルで、「ジャージ」でなく「ジャージー」と表記されている。しかし、衣服のことを「ジャージー」と表記するのは普通ではないと思う人も少なくないだろう。

NHK放送文化研究所が2010年2月に表記のゆれについて一般人に対して調査を実施したところ、「ジャージ」を用いると答えた人が84%で、「ジャージー」を用いると答えた人が15%であった [3] 。年長者の方が「ジャージー」を用いると答えた人が多いので、「ジャージー」の方が古い形である可能性がある。一般的に言えば、年長者の方が古い形を使うことが多いためだ。ただ、必ずそうなるというわけではないので、他のデータを合わせて慎重に考える必要があるが。

また、2014年に行われたNHKの第1381回放送用語委員会の報告によると、当時は、NHKのほか、新聞社・通信社では「ジャージー」で表記を統一していたとのことである [4]

脚注
  1. Flickrより SpreadshirtのCC BY 2.0画像を使用。 []
  2. 先に『NHK発音アクセント新辞典』では平板型とされていると書いたが、この新しいNHKのアクセント辞典が出たのは2016年である。ここで触れたNHKのアナウンサーの発音は2015年末のものなので、2016年に出た辞典の記述と矛盾があってもおかしくはない。 []
  3. 太田眞希恵.(2010). 「伝統離れの「乳離れ」、伝統継承の「初産」」『放送研究と調査』2010年12月号、pp.12-25. []
  4. 山下洋子.(2014).「外来語の発音・表記について」『放送研究と調査』2014年10月号、pp.78-87. []