Mx とは
男女を判断する必要がある敬称表現の問題点

英語には、“Mr”と“Ms”という敬称表現がある ((“Mr”や“Ms”のようにピリオド無しで用いるのはイギリス英語風の書き方である。アメリカ英語では“Mr.”や“Ms.”のようにピリオドを付して表記する。)) 。これは日本語の「……さん」や「……様」に相当する表現である。
日本語の「……さん」は男性に対しても女性に対しても用いることができる。これに対して、英語では“Mr”は男性にしか使えないし、“Ms”は女性にしか使えない。例えば、“Mr Smith”ならば男性のスミスさんだし、“Ms Smith”なら女性のスミスさんになる。
日本語の「……さん」を使うときは、敬称を付ける相手が男性か女性かを判断する必要はない。しかし、英語では“Mr”と“Ms”を使う限り、敬称を付ける相手が男性か女性か判断しなくてはならない。
このように判断しなくてはならないことは不便である。世の中には、単純に男性とも女性とも言い切れない人がいる。例えば、クロスドレッサー(異性装者)や両性具有者は、男性とも女性とも言えないのだ。こうした人に対して、“Mr”を用いるのか“Ms”を用いるのか判断することはかなり困難である。
性別に中立な敬称表現
男性か女性かに関係なく用いることができる敬称表現があれば、男性とも女性とも言い切れない人に対して用いるのに便利である。そこで、性別に中立な敬称表現として、“Mx”というものが生まれた。なお、“Mx”の初出例は、1977年であるという ((Herman, B. (2015, May 5). Mr., Mrs. or Mx.? Oxford English Dictionary Adopts Gender-Neutral Honorific. International Business Times. Retrieved from http://www.ibtimes.com/mr-mrs-or-mx-oxford-english-dictionary-adopts-gender-neutral-honorific-1907977)) 。
“Mx”という言葉が使われている例を1つ挙げよう。以下の動画は、ジャスティン・V・ボンド氏へのインタビューである。ボンド氏はドラァグクイーンとして女装している人物で、自分の敬称として“Mx”を使っている。
この動画の2分23秒のところで“Mx”が使われている。ボンド氏は“Mx”を“mix”(ミクス)のように発音している。
なお、アメリカ英語風の書き方では、“Mr.”や“Ms.”と同様に、ピリオドを後に置いて“Mx.”と表記する。イギリス英語風の書き方では、ピリオド無しで“Mx”と表記する。
すでに広く使われている Mx
イギリスでは、“Mx”がすでに広く使われている。例えば、The Genderqueer Activist というウェブサイトのVersion 2.2 of Mx Evidence PDF is up という記事では、“Mx”が用いられている事例を載せたPDFを配付している。
そのPDFによれば、イギリスの政府機関・銀行・大学などで、“Mx” という敬称を用いた例がある。
『オックスフォード英語辞典』に掲載予定
また、“Mx”という言葉は、英語の権威ある時点の1つである『オックスフォード英語辞典』(Oxford English Dictionary) に、近く掲載される予定とのことである ((Herman, B. (2015, May 5). Mr., Mrs. or Mx.? Oxford English Dictionary Adopts Gender-Neutral Honorific. International Business Times. Retrieved from http://www.ibtimes.com/mr-mrs-or-mx-oxford-english-dictionary-adopts-gender-neutral-honorific-1907977)) 。