魔王―ブラック企業編

概要
残業で疲れ果てて帰ってくる息子と、息子を迎える父親。そんな息子にささやかれるブラック企業からの心地よい言葉。

本文

風と闇の中、遅くに帰ってくるのは誰か?
残業で疲れ果てて帰ってくる息子だ。
父親は息子が帰ってくるのを迎え、
そしてまた職場に行くのを送る。

子を連れ去る魔王
子を連れ去る魔王

「息子よ、なぜおそれて顔を隠すのだ?」
「お父さんにはブラック企業が見えないの?
 朝早くも夜遅くも働かせるブラック企業を!」
「息子よ、あれは残業が多いだけの職場だよ」

「会社の大事な財産である人財よ、私と一緒においで。
 夢に向かって一緒に成長していこうではないか?
 仕事から得られる数え切れないほどの感謝と感動が、
 そしてがんばった分だけ報われる職場が待っている」

「お父さん、お父さん! 聞こえないの?
 ブラック企業のささやきが聞こえないの?」
「息子よ、あわてるでない、
 あれは尊敬する社長の言葉だよ」

「大事な社員よ、私と共に夢に向かってがんばらないか?
 仕事の仲間が待っているぞ。
 和気あいあいとした大事な仲間が、
 一緒に仕事をするのを待っているぞ」

「お父さん、お父さん! そこにいるのが見えないの?
 ブラック企業の社畜が灰色の顔をしているのが見えないの?」
「息子よ、息子よ、見えるぞ、
 夢に向かってがんばって働くみんなが見えるぞ」

「我が社には幹部候補の君が必要だ。
 さあ残業代無しで深夜まで働くが良い、いやがっても連れて行くぞ」
「お父さん、お父さん! ブラック企業が僕を連れて行くよ!
 ブラック企業が僕を苦しめている!」

息子の剣幕に恐れをなした父親は、
苦しむ息子を腕に抱いた。
息子をブラック企業から連れ帰った時には、
腕の中で息子は息絶えていた。

注意書き

この物語はフィクションです。