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風と闇の中、遅くに帰ってくるのは誰か?
残業で疲れ果てて帰ってくる息子だ。
父親は息子が帰ってくるのを迎え、
そしてまた職場に行くのを送る。
「息子よ、なぜおそれて顔を隠すのだ?」
「お父さんにはブラック企業が見えないの?
朝早くも夜遅くも働かせるブラック企業を!」
「息子よ、あれは残業が多いだけの職場だよ」
「会社の大事な財産である人財よ、私と一緒においで。
夢に向かって一緒に成長していこうではないか?
仕事から得られる数え切れないほどの感謝と感動が、
そしてがんばった分だけ報われる職場が待っている」
「お父さん、お父さん! 聞こえないの?
ブラック企業のささやきが聞こえないの?」
「息子よ、あわてるでない、
あれは尊敬する社長の言葉だよ」
「大事な社員よ、私と共に夢に向かってがんばらないか?
仕事の仲間が待っているぞ。
和気あいあいとした大事な仲間が、
一緒に仕事をするのを待っているぞ」
「お父さん、お父さん! そこにいるのが見えないの?
ブラック企業の社畜が灰色の顔をしているのが見えないの?」
「息子よ、息子よ、見えるぞ、
夢に向かってがんばって働くみんなが見えるぞ」
「我が社には幹部候補の君が必要だ。
さあ残業代無しで深夜まで働くが良い、いやがっても連れて行くぞ」
「お父さん、お父さん! ブラック企業が僕を連れて行くよ!
ブラック企業が僕を苦しめている!」
息子の剣幕に恐れをなした父親は、
苦しむ息子を腕に抱いた。
息子をブラック企業から連れ帰った時には、
腕の中で息子は息絶えていた。
注意書き
この物語はフィクションです。