候文とは
候文とは、中世から近代にかけての日本で用いられた文体である。「候」という字を文末に用いることを特徴とし、書簡文に広く用いられた。
かつては、年賀状も候文で書かれることが多かった。今日は、候文で年賀状を書く場合に使える例文をいくつか紹介する。これらは明治から大正の候文の年賀状をイメージしたものである。
〔2013年12月31日追記〕ここに紹介してある候文の例は、無許可で自由に使ってもらって構わない。また、これらの例については、出典を書く必要もない。
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候文による年賀状の構成要素
年賀状というのは定型文の羅列なので、既存の表現を順序正しく組み合わせれば簡単に書くことができるはずだ。以下では、年賀状の構成要素別に、例文を紹介する。
なお、以下の候文の例に振られている読み仮名は、すべて歴史的仮名遣いによるものである。
「新年のお慶びを申し上げます」に相当する言い方
まず、年賀状の冒頭部分の例を3つ見てみよう。以下の3つの例はいずれも「新年のお慶びを申し上げます」という意味になる。
新年之御慶目出度申納候
謹而改曆之嘉祥を奉賀候
謹而新陽之嘉兆を申述候
「改曆」 [1] や「新陽」は現在ではほとんど使われない言葉だが、両方とも新年を意味する。新年を意味する言葉としては、「新春」というのもある。
新年というものはよろこばしいものとされている。上の例ではよろこばしさを示す表現として、「御慶」、「嘉祥」、「嘉兆」が用いられている。他にも、「佳慶」という言葉がある。
なお、「おめでたい」は「御目出度」か「御芽出度」と書く。
相手の無事を祝う言い方
冒頭の挨拶の後には、相手の無事を祝う言葉を述べるのが通例である。相手の無事を祝う言い方の例を3つ見てみよう。
御高堂御迎年被遊大慶至極奉存候
(意味:あなたさまの家が新年をお迎えになったのは、まことによろこばしいことだと思います。)
御全家愈々御淸榮にて御越年遊ばされ候段大賀至極に奉存候
(意味:あなたさまの一家が一層繁栄して年をお越しになられたのは、まことによろこばしいことだと思います。)
御渾家益々御繁昌にて御超歲遊ばされ奉恭賀候一層の御慶福有らんことを奉祈候
(意味:あなたさまの一家がますます繁栄して年をお越しになられたことをつつしんでお祝い申し上げます。さらによろこばしいことがありますようにお祈り申し上げます。)
相手個人だけでなく、相手の一家を祝うのがポイントである。「高堂」とは相手の家を尊敬して述べる表現で、「渾家」とは「一家」の意味である。
自分の無事を述べる言い方
相手の無事を祝ったら、自分の無事を相手に伝えよう。自分の無事を述べる言い方を2つ紹介する。
弊廬も無事犬馬之齡を重ね候閒御休心被下度候
(意味:我が家でも無事に年をとることができましたので、ご安心下さい。)
茅屋無事新年を迎へ候條乍憚御安意被下度候
(意味:我が家でも無事に新年を迎えることができましたので、おそれながらご安心下さい。)
自分のことを言うので、謙譲語を使う必要がある。「弊廬」も「茅屋」も自分の家をへりくだって言う表現である。他には「拙宅」、「弊屋」などの表現がある。
一番目の例に書かれている「犬馬之齢」というのは自分の年齢をへりくだって言う表現である。「犬馬之齢を重ね」で「年をとる」という意味になる。昔は数え年で年齢を計算していたため、誕生日で一歳増えるのではなく、元日で一歳増えることになる。つまり、無事新年を迎えることができれば、無事年をとることになるのだ。
「昨年はお世話になりました」に相当する言い方
「昨年はお世話になりました」に相当する言い方を3つ紹介する。
客年は一方ならぬ御愛顧を蒙り誠難有謹御禮申上候
舊年は御高庇に預り有難く御厚禮申上候
舊冬中は御眷顧を賜り有難き仕合に御座候
「客年」、「舊年」 [2] は「昨年」の意味である。また「高庇」、「眷顧」は「愛顧」と同じ意味である。
「今年もよろしくお願いします」に相当する言い方
「今年もよろしくお願いします」に相当する言い方を2つ紹介する。これは先に述べた「昨年はお世話になりました」に相当する言い方に続けると良い。
本年も不相變御厚情之程偏奉願候
尙本年も相變らず御懇親の程奉願候
まとめ
実際の年賀状を書く際には、上述の表現を順に組み合わせれば良い。例えば、以下のような例が考えられる。
新年之御慶目出度申納候
御全家愈々御淸榮にて御越年遊ばされ候段大賀至極に奉存候
茅屋無事新年を迎へ候條乍憚御安意被下度候
客年は一方ならぬ御愛顧を蒙り誠難有謹御禮申上候
尙本年も相變らず御懇親の程奉願候