文系博士後期課程院生の就活

概要
文系博士後期課程院生だった自分がどのように就活したかについて。

はじめに

大学院をやめるにあたって、職探しをした。やめるにしても食い扶持のあてがなければ、どうしようもないからだ。いわゆる文系の博士後期課程の院生が、就活をするのはあまりないケースだと思うので、自分の経験を記すことにした。似たような状況にある人の参考になれば幸いである。

もし、文系の博士の院生で進路や就活について悩んでいる人がいたら、私で良ければお話しを聞きますので、ご遠慮なく連絡してください。悩んでばかりいてはしかたありませんから。

なお、ここで述べる「就活」は、大学などでのアカデミックポストへの就職を目指すことではなく、民間の一般企業などへの就活を目指すことを指している。この他、公務員の採用試験を受けて公務員になる道もあるし、中高などの教員になるという道もあるが、私はそういう道を選ぼうとしなかったので、公務や教員についての話はここでは書かない。

また、ここでの就活は博士後期課程の院生の就活を念頭に置いている。院生といっても、修士課程生ならば、文系でも就活はそんなに難しくないはずだ。最近は、修士課程生は学部生とほぼ同じ条件で扱われると考えてよいだろう。普通の学部生と同じように就活をすればそれほど問題はないと思う。

以下に記すのは、あくまでも私が経験した範囲の話だ。他の人に当てはまるかどうかは分からない。むしろ、ほとんどが当てはまらないかもしれない。だから、以下の記述を鵜呑みにするのではなく、こういう場合もあるのだと参考にするつもりで読んでいただきたい。

なお、アカリクという院生・ポスドクなどの就職支援をしている会社が出した『大学院生、ポストドクターのための就職活動マニュアル』という本がある。理系中心で、文系の話はあまりないものの、院生特有の就活事情が書かれているので参考になると思う。

就活の時期

私は昨年の3月末から就活を始めた。本当ならもう少し早めに始めるべきだった。というのも、4月初頭に採用活動を行う企業が多いからだ。3月末から始めていたとはいえ、情報収集には時間がかかる。この企業は良さそうだと気づいたときには、採用が終わっていたという事態に陥ってしまった。なぜ、始める時期が遅くなったのかというと、大学院をやめるかどうか、そしてやめるとしたらどの時点でやめるのかを自分の中で決めかねていたためだ。当時の自分に対しては「悩んでいてもとりあえず情報収集だけでもしておけば」と言いたい。

就活期間はおよそ3ヶ月間。3月末に始めたので、6月末に終えたことになる。その流れを記すと以下の通り。なお、エントリーシートや履歴書を出したのは16社。内定が出たのはそのうち4社。不採用通知が来たのが9社。残りの3社は私の方から選考途中で辞退した。

基本的に、各社の選考は、エントリーシートや履歴書の提出→(あれば)筆記試験→面接3回ぐらい→内定という順番になる。

学部生の就活に比べると、応募した企業の数はかなり少なかったと思う。少なくなった理由は、募集規定に当てはまらない例が多かったからだ。学部卒のみとか、25歳以下に限るという例が案外多いので、そもそも応募できるところが少なかったのだ。結果として、1つ1つの会社の選考に集中できたとも言えなくはない。

博士後期課程の院生の特徴

世の人は、博士後期課程の院生のことをよく知らない――このことに注意して就職活動を行う必要がある。よく知らないから敬遠されるという話もよく聞く。大学院の中での常識は、世間の常識とは違うのだ [1] 。それを踏まえて謙虚にならなくてはならない。

世間には、象牙の塔の住人がコミュニケーションが不得手だという通念がある。文系の院生だと、1人で研究を進められることが多いだろうから、チームで動くという経験があまりないということもあるだろう。面接などでは、先方に一匹狼でないということを伝える必要がある。一番良いのは、チームで動いた経験を語ることだ。例えば、学会の運営に携わったとか、紀要の編集委員をやったとかそういう話があれば、そこでどうチームワークを発揮したのか語ろう。どうしても院生時代にそういうエピソードがなければ、学部生のころの話をしても良い。

私は就職先を探すに当たって、大学院生に理解のありそうなところを探すようにした。実際に院生を採用しているところならば、ある程度は理解があると見なしてよいと考えた。採用案内に院生の採用例が載っている会社を探すのはそれほど難しくない。こうした院生の採用例はほとんどが修士課程修了者を採用しているもので、博士後期課程の院生とは直接は関係しない。だが、修士課程生を採用するのなら、博士後期課程の院生を採用する可能性は低くないと考えられなくもない。これに比べれば、修士課程生すら採用しない会社が博士後期課程の院生を採用するとは考えにくい。とりあえずのフィルタリングになる。『就職四季報』の巻末には企業ごとの博士の採用数が書いてある [2] ので、それも参考になるだろう。

博士後期課程の院生が就職するにあたって、一番のネックになるのが年齢だ。残念ながら、現在の日本社会では若い方が好まれ、30を超えてからの就職は難しい傾向がある。浪人・留年などがなかったとしても、学部4年、修士2年、博士3年を終えれば、27歳になってしまう。何らかの理由で浪人やら留年をしてしまうと、一気に30を超えてしまう。一般企業などへの就職を考えているなら、早めに決断することが大事だ。公務員の採用なども30歳までという例が多い。

新卒採用情報を見ていると、「大学院生歓迎」という例が結構ある。だが、この「大学院生」というのは、ほとんどの場合修士課程の学生を念頭に置いている。博士後期課程の院生は想定されていないのである。「大学院生」を募集しておきながら、年齢は25歳までという例もあった。これは、まさしく修士課程生しか見ていない例だ。また、いわゆるブラック企業などで、「大学院生歓迎」とする例も少なくない。これは人がどんどんやめていくので、だれでもいいから人手がほしくて「大学院生歓迎」と載せているだけだ。

同級生に聞こう

学部生の就活だとよく「OB訪問をしよう」といった話がある。実際に企業の中で働いている先輩の話を聞くことができて利益になるからだ。

博士後期課程の院生は、この点で有利かもしれない。OBだけでなく、学部を出たときに就職した同級生にも話を聞ける。先輩よりは同級生に聞く方が色々と気楽だろう。また、後輩の方が先に就職しているということもあるので、後輩に聞いてみるという手もある。「後輩に頼るなんて情けない」と思う人もいるかもしれないが、そういった感情は捨て去って話を聞いてみるべきだ。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。

新卒採用か中途採用か

博士後期課程の院生を新卒採用扱いする会社もあれば、中途採用扱いする会社もある。新卒採用扱いならば、学部生と一緒に選考を受けることとなる。中小企業だと新卒も中途も特に分けていないという例もある。

その他

面接で聞かれること

採用面接で聞かれることは大体決まっている。新卒採用か中途採用か、はたまた学部生か院生かに関わらず、志望動機や自己PRは必ず問われると言って良いだろう。

ただ、時には院生にしか問われないだろうという質問がなされることがある。院生特有の質問を以下にいくつか挙げよう。

上記の話題に対して、ちゃんと答えられるようにしておく必要がある。逆に、上記の話題がしっかり答えられるようになれば、自分の将来への道筋がはっきりしてくる面もある。よく考えよう。

給料

面接の最後に「給料はいくらほしいですか?」と聞かれたことが何度かあった。「初任給って決まっているんじゃないの?」と思う人がいるかもしれない。ただ、普通の会社だと、大卒・修士修了の人に対してのみ初任給を設定するらしい。そして、博士後期課程の院生の初任給は特に設定されていないらしい。それでもって、「給料はいくらほしいですか?」という質問がなされるようだ。

この質問に対して絶対的な答えはない。ただ、お金の話は大事なことなので、いきなり聞かれて慌てるのではなく、あらかじめ考えておきたいものだ。就活をしていると、就職することが第一の目的のように思ってしまうことがある。だが、職に就いて生活費を稼ぐことのほうがより本質的な目的であろう。自分の将来の生活を考えて、適切に答えられるようにしたい。

筆記試験対策

私が受けた筆記試験には、以下のタイプのものがあった。

  1. SPI2のような一般的な能力を測るオーソドックスな就職採用試験
  2. 英語のテスト
  3. プログラミングのテスト
  4. 専門学科に関するテスト

一応、最初のSPI2のような試験への対策として、SPI2の試験問題集を1冊買ってきて解いた。新古書店で買ってきた問題集で出費はたったの105円である。新たに知識や解法を学習するというよりも、問題の形式に慣れるために使った。

英語のテストはどこもそんなに難しくなかった。まともに院生をやっているのなら、英語ぐらいできるだろうし、特に対策も何もしなかった。プログラミングのテストは、IT関連の企業を受けたときに課されたものだ。これも特に対策せず。もっとも普通の文系の大学院生はプログラミングをしないだろうが。専門学科に関するテストというのは、教育系の企業を受けたときに課されたもので、大学入試レベルの国語とか英語とかの問題を解かされた。これもまともに院生をやっているのならできるはずだ。

追記:その後

(本節は2016年3月31日追記したものである。)この記事を公開してから3年が経ったので、その間に積んだ経験を元に博士後期課程院生の就活を振り返ってみた文章として「文系博士後期課程院生の就活から3年」というのを書いたので合わせて参考にされたい。

脚注
  1. 学部生の常識と世間の常識も異なっているが、学部生の常識を経験したことがある社会人は多いので、決定的に理解できないということにはならない。 []
  2. ただ多くは理工系の博士を採用した例だと思われる。 []