大学院の研究室を選ぶ際に着目すべき5つのポイント

概要
大学院の研究室を選ぶ際には、研究内容以外にも考慮すべき点がある。例えば、教員の年齢や他の院生の雰囲気などである。

はじめに

大学院の研究室を選ぶ際に、最も重要なポイントはその研究室でどんな研究が行われているかということだと思う。しかし、研究内容だけを見れば良いというものではない。他にも考慮すべき点はたくさんある。

このことは、家を探すときと似ている。家を探すときは、家の間取りが重要なポイントとなる。しかし、考慮すべき点は他にもある。例えば、交通の便は良いか、近所に便利な施設はあるかといったことを考えないわけにはいかない。もし、間取りしか考慮せずに家を探したら、とんでもない家に住むことになってしまうこともあるだろう。

大学院の研究室を選ぶのも家探しと同じである。単に研究内容が気に入ったからといって、それだけで研究室を決めると、とんでもないことになってしまうかもしれない。

というわけで、今回は、大学院の研究室を選ぶ際に、見ておくと良いポイントを挙げてみたので、研究室を決める際に参考にしていただければ幸いである。自分が見聞きした範囲からものを言っているので、妥当でなかったり実情に反したりする面もあるかもしれないが、ご容赦願いたい。

なお、今回は、日本の大学院を念頭において説明する。一応、いわゆる文系・理系の双方に通ずる話を書いたつもりである。ただし、海外の大学院は事情がかなり異なるので、ここに書いてあることは適用しない方が良いと思う。また、日本国内であっても専門職大学院も事情がかなり異なるので、ここに書いてあることは参考にならないと思う。

教員の年齢と定年

大学院の研究室を選ぶということは、大学院での指導教員を選ぶということにほぼ等しい。どんな教員に研究指導を受けるかによって、研究者としての人生が変わってくるはずだ。

さて、指導教員となるであろう教員の年齢をちゃんと見ておかないと、大学院在学中にその教員が定年してしまい、継続した指導を受けられなくなるという可能性がある。

国立大学では大体65歳で定年 [1] となる。例えば、あなたが大学院に入ったとき、指導教員が62歳だったとしよう。この条件の下では、大学院に入ってから3年経つと、指導教員は65歳となって定年退職してしまう。大学院で博士号を取得するには通常5年かかるので、あなたが博士号を取得する前に指導教員と別れることとなってしまうのである。

まともな大学院ならば、教員が退職してしまっても補充の教員が来るので、新しく来た人に指導を受けることはできる。しかし、今までの指導の蓄積が崩れる形になるので、研究を進める上ではあまり好ましい状況ではないだろう。

なお、博士号を取得するには通常5年かかるから、大学院入学時に指導教員が60歳ならば、ぎりぎり65歳のときに博士号が取得できるということになる。ただし、文系だと、5年ちょうどで博士号が出る例は多くなく、下手をすると10年近くかかることもあるので、大学院入学時に指導教員が60歳だと、定年に引っかかる可能性がかなり高い。また、ほとんどの人が5年で博士号を取得できる分野でも、大学院に通っている途中で病気にかかったり、親の介護をしたりして、6年以上かかる場合もある。指導教員としたい教員の年齢が50代後半以上なら、教員が定年になるという可能性を念頭においておくべきだ。

他の院生

研究室内の他の院生は、単に同級生(あるいは先輩・後輩)というだけでなく、良き教師でもある。研究室で物事を教えてくれるのは、先輩院生であることが多いし、議論する相手としても他の院生は重要である。研究室を選ぶ際は院生をちゃんと観察しておきたい。

進学したい大学院の研究室を訪れる機会があれば、次のような点を見ておきたい。

蔵書

図書館 [4] などに書籍がしっかり備わっているかは、研究を行う際に注意すべき点である。

研究の際には、様々な専門書を読む必要がある。だから、「○○学」の大学院なのに、図書館に「○○学」に関する書籍がほとんどないといった場合、研究の遂行が困難になる。そんな馬鹿なことはあるまいと思うかもしれないが、実際にそういったことはあるのだ。自分の行きたい大学院に専門書がなくても、別の大学の図書館から取り寄せてもらうとか、自費で買うとかいう手段はあるが、自分の大学の図書館にあるにこしたことはない。

大学図書館の蔵書はネットから調べることができる [5] 。自分の行きたい大学院の図書館のオンライン蔵書目録 (OPAC) を使って、その大学に自分の研究したい分野の基本書 [6] があるかどうかチェックしてみると良い。和書だけでなく、洋書もちゃんと入っているかを見ておいた方が良いだろう。

なお、複数のキャンパスに分かれている大学の場合、他のキャンパスには書籍がたくさんあるが、自分の行きたい研究室のあるキャンパスにはあまりないということもありうるので注意しよう。

立地

研究というものは、研究室の中だけで行われるものではない。外に出て、人と意見を交わしたりすることも重要である。学外で研究に関するシンポジウムが行われることもあるし、資料を探しに外部の図書館に行ったりすることもあるだろう。

ここで問題になるのが研究室の立地である。大学のキャンパスは人里離れたところにあることが少なくない。そうしたへんぴな場所にある場合、学外のイベントなどに参加しにくくなる。また、大学の枠を超えた研究会といったものは、いきおい人口が多い場所で行われるので、都内や京阪以外の大学だと、そういった研究会に参加しにくい。

なお、立地にこだわるかどうかは性格の問題である。外で人と色々意見を交わすことで自分の考えを深めるタイプの人は、都会の大学の方が良いかもしれない。

教育体制

大学院は研究をする場なのだが、研究をするには知識やノウハウを色々身につける必要がある。知識やノウハウをどうやって伝えるかは、研究室によって異なる。

よくあるパターンとして、徒弟制的教育がある。授業という公式の枠組みよりも、研究室の中での非公式な指導を通じて「技を盗む」パターンである。研究室の中で、指導教員、助教、ポスドク、先輩院生などがやっていることを模倣することで、様々な知識やノウハウを身につけるのである。

あるいは、コースワークによる教育 [7] というパターンもある。このパターンだと、様々な教員が開講する授業に参加することを通じ、ある学問の基礎と方法論を学ぶことになる。こちらのパターンは授業の負担が大きい。しかし、様々な教員から学ぶことができるので、視野を広めやすいと思う。

極めて乱暴に言うと、徒弟制は狭く深く、コースワークは広く浅くといったところだろうか。どちらかが優れているというわけではない。自分の目指す道と自分の性格に応じて、徒弟制的教育の方が向いているのか、コースワークによる教育の方が向いているのかということを考える必要がある。ただ、日本の大学だと、お金と人材の都合で、ほとんどが徒弟制的教育になる。コースワークによる教育を本気で展開するには、色んな分野の教員が必要となるのだが、そこまで広く教員を擁している大学院はそんなにない。

なお、徒弟制でもコースワークでもないというパターンもある。そして、徒弟制もコースワークも存在しないというパターンもあるので、注意したい。

まとめ

こんなことを気にして日本の大学院に行くより、行けるなら北米の大学院に行った方が良いと思う。聞いた話によると、教員の質も、院生の質も、蔵書の質も、教育体制の質も日本より大体良いらしいので。

脚注
  1. 私大は70歳が定年というところが多いが、大学によって異なる。 []
  2. 分野にもよるが、人文系なら1人の院生が1年に1回発表して、論文を1本投稿していればかなり良い方。工学系でそのペースなら、その研究室は真面目に動いていないように見える。 []
  3. 一応、修士課程と博士後期課程を合わせて5年間で博士号を出すのが普通だが、いわゆる文系では5年ではまず博士号が出ないということがある。自分の人生プランを立てる際の目安になるので、どれだけかかるかは確認できればしておいた方が良い。 []
  4. これは個々の研究室レベルの話ではなく、大学レベルの話であるが、重要なので一応記すことにした。 []
  5. 日本国内の大学図書館関係WWWサーバ」というリンク集があるので、ここから自分の行きたい大学の図書館を探せば良い。 []
  6. 基本書にどんなものがあるか分からない場合は、以下のようにすれば良い。まず、自分の研究したい分野の学部生向けの教科書を手に入れる。それなりの厚みがある教科書で、英語で書かれたものの方が良いが、なければ日本語でも構わない。そうすると、大体“further readings”とか「もっと勉強したい人のために」という項目がある。そこに掲載されている書籍を大事な基本書と見なす。 []
  7. 北米の大学院に行くと、しっかりとコースワークを行うというのが多いようだ。 []