平方が「一乗」と呼ばれていた頃

概要
「平方」のことを今は「二乗」と呼ぶ。しかし、明治初期に出た西洋数学書の訳書に「平方」を「一乗」と呼んでいる例があった。これは、おそらく和算の用法をそのまま利用したものであろう。

本文

1872(明治5)年に出た『代微積拾級訳解』(羅密士、1872)という本がある。これは、中国語訳された西洋数学書を、さらに日本語に訳したものである [1] 。この日本語訳書の冒頭には、西洋式の数学符号の使い方の説明が書いてある。その中で、今の「二乗」(=平方)のことを「一乗」と表記していた。

aの平方について、「同元ノ一乘ナリ aヲ自乘シタルナリ」と書いてある。また、aの立方については「同元ノ再乘ナリ aヲ再乘シタルナリ」と書いてある。(国立国会図書館デジタルコレクションの『代微積拾級訳解』より引用。)
aの平方について、「同元ノ一乘ナリ aヲ自乘シタルナリ」と書いてある。また、aの立方については「同元ノ再乘ナリ aヲ再乘シタルナリ」と書いてある。(国立国会図書館デジタルコレクションの『代微積拾級訳解』より引用。)

和算では現代の n 乗のことを (n-1) 乗と言う(竹之内、2008)とのことだから、和算の用法をそのまま利用したのであろう。(あるいは和算のもととなった中国数学の用法を利用したとも言えるかもしれないが。)

参考文献

脚注
  1. この本がどのようにしてできたかについては、公田 (2012) に詳しい。 []