1つの文言で2言語分を表す案内

概要
“出口”と1回書くだけで日本語と中国語の両方を表すなど、1つの文言で2言語分を表している案内標識の例の紹介。日本での漢字が関わる例のほか、ヨーロッパでのラテン文字が関わる例も紹介。

漢字

“南”

成田空港第2ターミナル出発ロビーにつるされている案内(2017年10月撮影)。“南”が日本語と中国語を表している。
成田空港第2ターミナル出発ロビーにつるされている案内(2017年10月撮影)。“南”が日本語と中国語を表している。

2017年10月に、成田空港第2ターミナルに行ったところ、写真に示すような案内が天井からつるされていた。この案内には何種類の言語が書かれているだろうか。

上の方に “南”、“SOUTH”、“남”と書かれているから、日本語・英語・韓国語の3種類の言語が書かれているように見える。しかし、下の方は、“出発”、“DEPARTURES”、“출발”、“出发”となっている。ここでは、日本語・英語・韓国語・中国語(簡体字)の4種類が書かれているように見える。上が3種類で、下が4種類というのは何かおかしい。上の方で中国語を記すのを忘れてしまったのだろうか。

たぶんそうではない。おそらく上の方では、“南”という1字で、日本語と中国語の2言語分を合わせて表示している。中国語でも、日本語と同様に「北と逆の方角」を表すときに“南”と書く。もちろん声に出して読むときには、日本語では “minami” となり、中国語では “nán” となって、全然違うものになる。しかし、文字に表せば、“南”というづらは両言語でまったく同じになる [1]

おそらくこの案内では、同じづらを繰り返すことを防ぐために、“南”を1回書くだけで2言語分を表すようにしたのではないだろうか。

“出口”

他にも似たような例がある。以下の写真をご覧いただきたい。

東京の渋谷駅構内の案内(2017年11月撮影)。右側にある“出口”が日本語と中国語を表している。
東京の渋谷駅構内の案内(2017年11月撮影)。右側にある“出口”が日本語と中国語を表している。
上記の渋谷駅構内の案内の“出口”の部分を拡大したもの。
上記の渋谷駅構内の案内の“出口”の部分を拡大したもの。

これは、2017年11月に撮影した東京の渋谷駅構内の案内だ。ほとんどの部分は、日本語・英語・中国語・韓国語の4種類の言語で書かれている。しかし、“出口”と書かれているあたりは、日本語・英語・韓国語の3種類しかないように見える。

ここも話としては、成田空港の“南”の例と同じだろう。中国語でも「外に出るところ」を表すのに“出口”と書く。発音は “chūkǒu” で日本語と全然違うが、づらはまったく同じだ。

要するに、“出口”という1つの文言で2つの言語が表されているのだ。

なお、複数の言語でづらがまったく同じだったとしても、必ず1つの文言に「統合」されるわけではない。以下の2018年7月に新千歳空港で撮影した写真を見ていただきたい。

新千歳空港の搭乗ゲートにある出口・手荷物受取所を示す案内(2018年7月撮影)。“出口”が3言語分繰り返されている。
新千歳空港の搭乗ゲートにある出口・手荷物受取所を示す案内(2018年7月撮影)。“出口”が3言語分繰り返されている。

ここでは“出口”が3回繰り返されている。左上の大きな“出口”は日本語で、“Exit” のすぐ下にある“出口”は簡体字の中国語、最下部にある“出口”は繁体字の中国語だと考えられる。

ラテンアルファベット

“Transfers”

ところで、1つの文言で2言語分を表す例は他の国にもあるのだろうか。ないわけではない。2017年10月にフィンランドのヘルシンキ・ヴァンター空港に行った際、以下のような案内を見つけた。

フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター空港における出口・乗り継ぎの案内看板(2017年10月撮影)。6言語分の情報しかないように見えるが、実はそうではない。
フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター空港における出口・乗り継ぎの案内看板(2017年10月撮影)。6言語分の情報しかないように見えるが、実はそうではない。

左半分には色々な言語で「出口」が表現されている。右半分も同様に色々な言語で「乗り継ぎ」が表現されている。それぞれ6種類の言語があるように見えるが、実はそれぞれ7種類の言語で案内されている。

フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター空港における出口・乗り継ぎの案内看板(2017年10月撮影)が表している7言語。
フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター空港における出口・乗り継ぎの案内看板(2017年10月撮影)が表している7言語。

「出口」が示されている左半分を見てみよう。左半分の左列には、“Ulos”、“Ut”、“Exit”とある。これはそれぞれフィンランド語、スウェーデン語、英語で「出口」を表している。次に左半分の右列を上から見ていこう。まず最初に“出口”とある。これはおそらく中国語と日本語を一気に表している。どちらか片方の言語しか表していない可能性もあるが、右半分に中国語と日本語があることと矛盾する。残りの“출구”、“Выход”はそれぞれ韓国語とロシア語だ。

今度は「乗り継ぎ」が示されている右半分を見てみよう。右半分の左列を上から見ていくと、“Jatkolennot”というフィンランド語がある。その次の “Transfers” はスウェーデン語と英語を一気に表している。そして、最も下に“Транзит”というロシア語が記されている。右半分の右列には“转机”、“乗り継ぎ”、“환승”とあり、それぞれ中国語(簡体字)、日本語、韓国語だ。

ここでの“Transfers”の例のように、ラテンアルファベットの1単語で2言語分を表すこともあるのだ。

“Casino”

もう1つ例を見てみよう。以下は、2017年11月にベルギーのブリュッセル中心部で撮った案内標識だ。これは、付近の施設・名所がどちらの方向にあるのかを示している。

ブリュッセルの案内標識(2017年11月撮影)。他の板はフランス語とオランダ語が分けて書かれているにも関わらず、“Casino”のところだけ一緒になっている。
ブリュッセルの案内標識(2017年11月撮影)。他の板はフランス語とオランダ語が分けて書かれているにも関わらず、“Casino”のところだけ一緒になっている。

写真を見れば分かるように、この案内標識は複数枚の板が組み合わさった形をしている。そして、1枚の板が1つの施設に対応している。ブリュッセルはフランス語とオランダ語が公用語になっているため、1枚の板の上段にフランス語が、下段にオランダ語が記されている。例えば、左手前の上側の板を見てみよう。これはブリュッセルの街の中心にあるグラン・プラスという広場への案内で、上段にフランス語で “Grand Place”、下段にオランダ語で “Grot Markt” と書かれている。

ここで、案内標識の右側の最も上の板を見てほしい。“Casino” しか書かれていない。これだけ見ると、1言語分の情報しかないように見える。しかし、フランス語でもオランダ語でもカジノのことを “Casino” と言うそうなので、これは“Casino” という1単語でフランス語とオランダ語の2言語分を示しているのかもしれない。

脚注
  1. 架空の話だが、もし韓国語が今でも漢字を常用していたとしたら、この案内にはハングルで“남”と書かれていなかったかもしれない。“南”の1字さえあれば、日本語の使い手だろうと、中国語の使い手だろうと、韓国語の使い手だろうと、それが「北と逆の方角」だと分かっただろう。 []