中国語の“先生”は女性に対して用いられることもある

概要
中国語の“先生” (xiānsheng) という言葉は、主に男性に対する敬称として用いられるが、時としてかなりの名声と功績のある女性に対して用いられることもある。

中国語の“先生”の一般的な用法

英語では、男性に対する敬称として “Mr.” が、女性に対する敬称として “Ms.” が用いられる。例えば、John Smith という男性については “Mr. Smith” もしくは “Mr. John Smith” と言う。

現代の中国語にも英語の “Mr.” と “Ms.” に似たはたらきをする言葉がある。中国語では、男性に対する敬称として“先生” (xiānsheng) が、女性に対する敬称として “女士” (nǚshì) が用いられるのが一般的である。例えば、王春敏という男性については、“王先生” もしくは “王春敏先生” と言う。

日本語では、教師や医師など限定された職業の人に対して「先生せんせい」という敬称が用いられるが、中国語の“先生”にはそういった限定はない。中国語では、ブルーカラーの男性に対して“先生”を用いることこそあまりないものの、ホワイトカラーの男性ならみな“先生”を用いて問題はない。

“先生”を女性に対して用いるとき

“先生”は男性に対する敬称であり、一般には女性に対しては用いない。しかし、かなりの名声と功績のある女性に対しては“先生”という敬称を用いることもある

実際、現代中国語の辞典《现代汉语词典 第6版》の“先生”の項には、以下のような語釈が記されている。

对知识分子和有一定身份的成年男子的尊称(有时也尊称有身份、有声望的女性)。

(引用者訳:知識人および一定の身分のある成年男性に対する尊称〔身分や声望のある女性に対する尊称として用いられることもある〕。)

中国社会科学院语言研究所词典编辑室〔编〕.(2012).《现代汉语词典 第6版》北京:商务印书馆.

ただし、女性に対して“先生”を使うハードルはかなり高い。男性ならば、大学を出たばかりで特にこれといった功績もないオフィスワーカーであっても“先生”を用いるのはまったく問題がない。しかし、女性の場合は、何らかの分野で相当の功績を挙げ、名声を得ていないようだと、“先生”は使いづらい。

具体例

女性に対して“先生”を使う際のハードルの高さについて、具体例を通じて確認していこうと思う。

中華人民共和国の副総理を務めた呉儀という女性がいる。この女性を讃える記事の1つに、“吴仪先生,人民永远记得你”というタイトル [1] のものがある。この記事のタイトルでは、副総理としてかなりの功績と名声のある女性だからこそ、“先生”という敬称を用いているのだろう。

この記事には、女性に“先生”を用いることについて、興味深い記述もある。

先生是我国对优秀女性的尊称,特指为国家和民族做出杰出贡献的女性,吴仪副总理无疑完全具备这样的资格。

(引用者訳:“先生”は我が国の優秀な女性に対する尊称であり、特に国家と民族のために傑出した貢献をなした女性を指す。呉儀副総理がこのような資格を完全に有していることは疑いない。)

徐光木.(2007年12月27日).吴仪先生,人民永远记得你.人民网. http://opinion.people.com.cn/GB/8213/113797/113798/6729926.html

女性に対して“先生”を使う際のハードルの高さがこの記述によく表れていると言えよう。副総理という高いレベルの女性でないと、このハードルの高さに合わないのだ。

もう1つ例を見てみよう。北京大学に陸倹明(男性)と馬真(女性)という教授がいる。2人は夫婦で、いずれも中国語研究の世界では大御所である。この2人の教授が華中師範大学に招待されたときの記事では、以下に示すように、男性の陸倹明教授にも女性の馬真教授にも“先生”という敬称が用いられている。

著名语言学家、北京大学中文系教授陆俭明先生与夫人马真先生应邀来我校讲学,在逸夫国际会议中心为师生们做了一场精彩的学术报告。〔強調引用者〕

(引用者訳:著名な言語学者で北京大学中国文学系教授の陸倹明先生と夫人の馬真先生が招待に応じて本校に講演に来て、逸夫国際会議センターで教員・学生に対してすばらしい学術報告を行った。)

李平萍.(2016年11月11日).北京大学陆俭明教授、马真教授应邀来我校讲学.华中师范大学语言与语言教育研究中心.http://ling.ccnu.edu.cn/info/1021/2673.htm

呉儀副総理とは分野が違うが、馬真教授の場合もかなりの名声がある女性だからこそ、“先生”が用いられている面があるのだろう。

脚注
  1. 記事のタイトルは「呉儀先生、人民は永遠に貴方のことを忘れません」という意味。 []