私が本気で英文和訳をするときの方法

概要
自分が英語の文章を日本語に訳すときに使う手順と、辞書・参考書についての説明。

はじめに

最近、英語の文章を日本語に気合を入れて訳すことが多かったので、その方法について、自分なりのやり方を簡単に紹介しておきたい。

もとより私のやり方が最適な翻訳方法だと思っているわけではないし、人によってやりやすい翻訳方法は異なるだろう。だから、ここで紹介する内容が誰でも使えるというわけではないのだが、何らかの参考にはなるかと思う。

以下では、まず、私が本気で英文和訳をするときにどのような手順を踏んでいるかについて説明する。次に、英文和訳の作業のときに使用している辞典や参考書などについて紹介する。なお、ここで紹介するのはあくまでも気合を入れて翻訳する場合の話である。状況によっては、ここまで面倒な方法を採らないこともある。

翻訳の手順

最近、私が本気で英文和訳をするときは、以下の5つの手順を踏むことが多い。

  1. 大まかな荒削りの翻訳を行う
  2. 細かなところを調べながら翻訳を行う
  3. 訳文を日本語として読みやすくする
  4. 訳文の校正を行う
  5. 訳文と原文に食いちがいがないか確認する

大まかな荒削りの翻訳を行う

まずは、英語を見ながら、前から順に勢いに任せて訳していく。この段階は大まかな荒削りの翻訳文を作り上げることが目標で、細かなところは気にしないようにする。

すぐに日本語に訳せない表現があったら英語のまま残しておく。分からない単語を調べるために辞典を引いたりすると、そこで翻訳作業の勢いがそがれてしまう。英語のまま残しておき、勢いのままで訳していった方がかえって効率が良い。

例えば、“I have a pineapple.” という英文を訳すときに、“pineapple”を日本語で何と言うか知らなかったとしよう。その場合は、とりあえず「私は pineapple を1つ持っている」と訳して、次の部分の翻訳に向かう。“pineapple”を英和辞典で調べるのは後の段階で良い。

また、訳文が日本語として不自然なところがあったとしても、そのまま訳していく。英語を日本語に置き換える作業と、日本語として自然にする作業は性質が違う。だから、英語を日本語に置き換える作業を優先し、日本語としての自然さは犠牲にする。日本語として自然にするのは後の段階でもかまわない。

細かなところを調べながら翻訳を行う

第1の段階においては、わからなかったところを飛ばしたり、ややこしいところを翻訳しないままでいたりする。こうしたところを直していくのが第2の段階である。

この段階では、英和辞典などを何度も引いて訳せなかったところを日本語にしていく。また、必要とあらば、専門用語について調べ上げ、訳注をつけていく。第1の段階が荒削りだとすれば、この第2の段階は細かなところを彫りこんでいく過程であると言える。

訳文を日本語として読みやすくする

次に、訳文のブラッシュアップを行う。この第3の段階では、英語の原文は見ない。今までに作った日本語訳だけを見て、それを日本語としてすっきりのしたものにする。

英語と日本語は言語の構造がかなり異なるので、英語に沿って訳していくとどうしても日本語として不自然になるところがある。このため日本語として自然にするように日本語の文章を1から書き直すつもりで訳文を直していく。

訳文の校正を行う

第4の段階においては、日本語の訳文に対して校正を行う。この段階でも英語の原文は見ない。前の段階で作成した日本語の訳文の誤字を修正したり、ゆれがある表記を統一したりする [1]

訳文と原文に食いちがいがないか確認する

最後の段階では、英語の原文と日本語の訳文とを照らし合わせることで、表している内容に食い違いがないかを確認する。第3の段階と第4の段階において、英語を見ずに日本語として自然にするためにかなり手直しをする。そうすると、もともとの英語の文章の意味から訳文が離れてしまうことがある。

原文と意味が離れてしまえば、それは翻訳として意味をなさなくなる。だから、最後に英語の原文と照らし合わせることで、ニュアンスが違うところはないか、訳の漏れはないかを確認する。そして、もしも食い違いがあれば適宜直していくことになる。

これら5つの段階を経ることにより、原文の表すことをしっかりと伝える訳文となるだけでなく、日本語としても読みやすい訳文になる。

翻訳の際に使う辞典・参考書

次に、私が翻訳の際に使う辞典や参考書について説明したいと思う。

英和辞典

英和辞典は、英語の表現に対応する日本語を探すために使う。この際、複数の英和大辞典を使うことが大事である。複数使うのは、1つだけでは訳語のバリエーションが足りないからだ。同じ英単語であったとしても、文脈によって適切な日本語訳は違ってくる。そして、訳語の選択肢が少なければ、適切な日本語訳を引き出すことが難しくなる。だから、訳語の選択肢を増やすために、複数の英和辞典を使うのだ。

例えば、“urban”という単語の訳語を考えるとき、研究社の『新英和大辞典』を見ると、「都市にある」といった訳語が出てくる。これに対して、小学館の『ランダムハウス英和大辞典』を見ると、「都会の」といった訳語が出てくる。前者しか使わなければ、「都会の」という訳語を思いつかない可能性がある。逆に後者しか使わなければ、「都市にある」という訳語を思いつかなかったかもしれない。併用することで、訳語の候補が増えるのだ。

なお、収録語数が少ない英和辞典には調べたい表現が載っていないことがあるので、収録語数が多い英和辞典を使うのが良い。

私は、以下の3種類の英和大辞典を併用している。

ただ、複数の大辞典を1つ1つ手で引くのは面倒なことである。だから、複数の辞典を一気に検索できる「串刺し検索」機能を使えるようにすると便利になる。私は、セイコーインスツル製 [2] の電子辞書専用機を使っている。あるいはパソコンやスマートフォンに串刺し検索ができる辞書ソフトなどを入れておくという手段もあるだろう。

上記の英和大辞典で解決できない場合は、英辞郎を使う。これは収録語数が非常に多いので、他の英和辞典で載っていない場合にも頼りになる。また、Weblio英語例文検索は、複数の語から成り立つ表現の和訳を考えるときに便利である。

このほか、専門用語の訳を考えるときは、ウィキペディアの言語間リンクも役に立つ。英語版ウィキペディアで専門用語を調べ、それに対応する日本語版ウィキペディアの記事への言語間リンクをたどるのだ。そのたどったさきの日本語版の記事のタイトルが、もとの英語の専門用語の訳となっている可能性は高い。ただし、本当に英語版と日本語版で同じものを示しているのかについては、よく検討する必要がある。このほか、『学術用語集』のたぐいも、専門用語の訳を考えるときに役立つ。これは、さまざまな学問分野における英語と日本語の専門用語の対訳で、英語から対応する日本語を探すことができる [3]

英英辞典

英英辞典は、(1) 英単語のニュアンスを知りたいときと、(2) 英和辞典に載っていない表現を探したいときに使う。

訳文と原文に食いちがいがないかを調べるときは、もとの英単語のニュアンスを英英辞典で調べ、それが日本語訳と合っているかを見る必要が出てくることもある。Oxford Advanced Learner’s Dictionary がこうした目的に合致しているのでよく使う。

一般の英和辞典に載っていない新しい俗語のたぐいは、オンライン上の英英辞典である Urban Dictionary で調べることが多い。ただし、この辞典は専門家が作っているわけではなく、ウィキペディアのように一般の利用者が語釈を投稿している。だから、語釈が正しいとはかぎらないので、他所での用例を見つつ慎重に取り扱っていく必要がある。

英語の文法書

語彙的な問題でなく、文法的な問題でつまづいたら、辞書よりも文法書を使うのが便利である。英語の文法書としては、私は以下の3冊を使っている。

私は、最初に『ロイヤル英文法』で確認し、それでも解決できなかったら残りの2冊で確認するという手順を取っている。Longman Grammar of Spoken and Written EnglishA Comprehensive Grammar of the English Language もかなり分厚いが、その分だけ詳しい説明がなされている。

国語辞典

国語辞典は、訳文の中で用いる日本語の用法が妥当かどうかを検討するために用いる。

収録語数が多いものは必要ない。なぜならば、大きな辞典にしか載っていないような難しい単語は、翻訳を読む人もどうせ分からないためだ。しっかりとした語釈がなされている中型の国語辞典の方が便利である。

私は最近は『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』を使っている。どちらも語釈がしっかりしているのでおすすめだ。

脚注
  1. 例えば、ある部分では「プリンター」と最後に伸ばし棒が書いてあるのに、別の部分では「プリンタ」と伸ばし棒がなければ、表記が統一されていないことになる。特に理由がなければ、どちらか一方のみを使うようにする。 []
  2. セイコーインスツル社はすでに電子辞書専用機の事業から撤退してしまっている。 []
  3. 逆に日本語から英語を探すことも可能である。 []