プレゼンテーションを台無しにする13ヶ条

概要
プレゼンテーションを台無しにしてしまう反面教師的なアドバイスの紹介と、どうすれば良いプレゼンとなるかについての解説。

はじめに

スタンフォード大学のブラッドリー・エフロン教授が書いた学会発表を台無しにする方法について紹介したい。エフロン教授は、以下の“Thirteen rules”(訳:13個のルール)という小文で統計学の研究者になろうという人に向けての反面教師として、学会発表を台無しにする方法を13ヶ条挙げている。

これは、学会発表を念頭に置いたものであるが、この方法はプレゼンテーションをするときに共通する一般的な話である。つまり、学会発表に限らず、何かプレゼンをするときにエフロン教授の示した方法を実行すれば、たちまちプレゼンは台無しになってしまう。

以下では、まず、エフロン教授が示した台無しにするため13ヶ条を紹介する。次に、それぞれがなぜプレゼンを台無しにするのか、どうすれば良いのかということについて解説する。

台無しにするための13ヶ条

以下に示すのが、プレゼンを台無しにするため13ヶ条だ。エフロン教授の文章では台無しにする方法がもっと細かく書いてあるのだが、ここでは概要を紹介するにとどめておく。

  1. ちゃんと準備しないようにしよう。
  2. 謝辞を並び立てるところから始めよう。
  3. ささいな議論で時間をむだにしよう。
  4. こみいった概要を出そう。
  5. 分かりやすい例を早めに出さないようにしよう。
  6. できるだけ一般的で抽象的な話から始めよう。
  7. 表記は完全に細かいところまで記そう。
  8. スクリーンに空白を残すのはむだだ。スクリーンに映った単語はすべて読み上げよう。
  9. 表の列や行はできるだけ多くしよう。
  10. はっきり話さないようにしよう。
  11. スライドの間を高速で行ったり来たりするようにしよう。
  12. 短い時間しかなくても学んだことは何でも話そう。
  13. 時間が足りなくなっても、スライドはすべて見せよう。

解説

上記の13ヶ条により、なぜプレゼンが台無しになるのだろうか。エフロン教授の文章には特に詳しい説明は書いていないので、以下、私なりに解説を加えたものを記しておきたい。

準備の重要性

まずは、13ヶ条の第1条から解説しよう。これは、プレゼンにおいて準備が重要であることを反面教師的に示したものだ。

プレゼンを良いものにするには、何よりもしっかりと準備することが重要になる。プレゼン本番だけ頑張っても仕方がない。その前にしっかりと準備しなくてはならない。たとえ、プレゼン本番で誰にも聞こえるようなはっきりした声でしゃべったとしても、事前にしっかりと話す内容について調べなければ、意味のある内容を話すことができず、結局聞き手には何も伝わらないことになる。

準備をしっかりすることがプレゼン成功の鍵だ。準備と言っても、PowerPoint を使ってプレゼンテーション用のスライドを作り込むだけが準備ではない。まずは、プレゼンで説明したいことをはっきりと決めたり、説明したいことについてしっかりと調べたりすることが必要になる。

そして、発表の練習をすることも準備に含まれる。実際に一通り発表してみて、時間内におさまるかどうか、分かりにくいところはないかを確かめよう。

時間配分

時間制限があるプレゼンは珍しくない。学会発表なら、プレゼンに使える時間は20分というのが相場だろう。大概、自分の話したいことを全部話そうとすると、時間制限を軽くオーバーしてしまうものだ。そういった限られた時間の中でプレゼンを行うのだ。

というわけで、余計なことを話している余裕はない。話したいことの中でも、本当に重要な根幹部分に集中して話す必要がある。

13ヶ条の第2条には、「謝辞を並び立てるところから始めよう」とある。お世話になった人やわざわざプレゼンを聞きに来た人にお礼を言いたくなるのは、分からなくはない。だが、それは話したいことの根幹部分ではない。謝辞を並び立てることでむだな時間を費やすことになれば、結局は本当に伝えたいことを伝える時間がなくなる。そうなれば、お礼を述べた相手に対してかえって失礼になるだろう。

まずは自分の伝えたいことを伝えることを優先しよう。謝辞を述べるのは別に後でもかまわない。聞き手は、あなたの話を聞きに来ている。あなたの謝辞を聞きたいのではないのだ。

また、13ヶ条の第3条では、ささいな話で余計な時間を費やしてしまう愚かさが反面教師的に述べられている。繰り返しになるが、プレゼンの時間は限られている。ささいな話で時間をむだにすべきではない。それよりも、あなたの伝えたいことの根幹を語ろう。

話し手と聞き手の情報格差

ささいな話というのは、時間をむだにするだけでなく、聞き手にとって分かりにくいという側面がある。話の根幹が説明されていない段階で、ささいな話がなされると、聞き手は話が理解しにくくなってしまうのだ。

なぜこうなるかというと、聞き手は話し手に比べて十分な情報を事前に持っていないからだ。話し手からすると、根幹はよく理解しているから、ささいな話をしたとしても話の筋が見える。だが、聞き手は根幹を知らない状態で聞くため、ささいな話をされると話の筋が分からなくなってしまうのだ。

プレゼンをするときに気をつけておきたいのは、話し手と聞き手の間に情報格差があるということだ。プレゼンが始まる前の段階のことを考えてみよう。話し手はプレゼンの内容についてそれなりに知っている。これに対して、聞き手はプレゼンの内容についてよく知らない状態にある。そもそも、聞き手がプレゼンの内容をあらかじめ熟知していたら、わざわざプレゼンを聞く意味がないだろう。

プレゼンを始めるときは、同時に、話し手と聞き手の間の情報格差を埋める作業を始めなくてはならない。こういった時に良い手段として、プレゼンの概要を示すことが挙げられる。つまり、どういった流れで話をするのかを大まかに示すのだ。

ここで、プレゼンの概要は、13ヶ条の第4条に示されているように、こみいったものにしてはならない。概要が適切に示されていれば、聞き手は話を追いやすい。しかし、これがこみいっているようだと、どんな流れの話なのか聞き手は理解できなくなってしまう。

また、最初に分かりやすい例を出すと、聞き手にとっては取っつきやすくなる。13ヶ条の第5条に書いてあるように、分かりやすい例の出しおしみは止めよう。

これと関連して、第6条に書いてあるように、最初に一般的で抽象的な話をすると、聞き手にとっては理解しにくくなる。まず、分かりやすい例を使って、聞き手が「これなら分かる」と思えるようにしよう。そして、その分かりやすい例を踏まえて、一般的で抽象的な話に持っていけば、聞き手もすんなり理解できる。もし、先に一般的で抽象的な話をしたら、聞き手は「これは分からない」と思って理解をあきらめてしまうかもしれない。そうしたら、後から分かりやすい例が出てきても、「これもどうせ分からないだろう」と思ってしまうかもしれない。

詰め込みの危険性

情報格差があるからと言って、聞き手に大量の情報を与えようとするとうまくいかなくなる。大量の情報が与えられても、それを消化するには時間がかかるものだ。プレゼンの場で、聞き手が一気に大量の情報を理解することは難しい

要するに、聞き手に情報を詰め込もうとしてもうまくいかないというわけだ。だから、話し手はできるだけ伝える情報をしぼらなくてはならない。13ヶ条の第7条にあるように、完全に細かいところまで見ることはできない。

また、プレゼンの際に見せるスライドも情報を詰め込みすぎないようにしたい。例えば、新商品のコンセプトを紹介すると称した以下のスライド例を見てほしい。13ヶ条の第8条の言うとおりに、空白は完全になくしてある。何が新商品のコンセプトかすぐ分かるだろうか。

詰め込みすぎで何が言いたいのか分からなくなっているスライド。
詰め込みすぎで何が言いたいのか分からなくなっているスライド。

上記の例はいささか極端かもしれないが、スライドに文字などがびっちり詰め込まれているとと読みづらいことは分かるだろう。こういうのを見ると、聞き手はスライドの文字を読むことに注意を払うようになる。結果として、あなたの話をしっかりと聞かなくなるだろう。あるいは、こうしたスライドに書かれていることを全部読み上げるという手もあるかもしれないが、それはそれで聞き手にとっては退屈だろうし、情報が詰め込まれて結局消化ができないということにもなりかねない。

先ほどの例は、以下のようにかなりシンプルにすることもできる。こうやれば聞き手に「ああ、バッテリー改善が鍵なんだな」と瞬時に理解させることができる。この後に、どうしてバッテリー改善が必要なのか、新商品でどれぐらいバッテリーが改善されたのかということを語れば良い。

シンプルに根幹となる情報を示したスライド。
シンプルに根幹となる情報を示したスライド [1]

また、13ヶ条の第9条にあるような複雑な表も、プレゼンの聞き手にとっては分かりにくい。表の内容をできるだけそぎ落として、聞き手に提示するのが良いだろう。

落ち着いたプレゼン

後は、落ち着いてプレゼンをするようにしよう。あわててしまうと、はっきり話せなくなるし、うまく順番に進められなくなってしまう可能性もある。

13ヶ条の第10条にあるようにはっきり話さないのはよろしくない。プレゼンのときは、はっきりと話そう。いつも聞いているようなことならば、はっきり聞こえなくても、聞き手は補完することができる。だが、プレゼンの場のように新しい情報を聞かされる場合は、補完することができない。だから、プレゼンのときは、はっきりと話すことを心がけよう。

また、大きな声で話そう。小さな声だと、前の方に座っている人には聞こえるかもしれないが、後ろの方に座っている人には聞こえないということもある。そして、早口はやめよう。早口だと聞き手の理解が追いつかなくなってしまう。

プレゼンの際に、13ヶ条の第11条に挙げられているように、高速でスライドを行ったり来たりする人がいるが、それは望ましくない。あわててスライドを動かすと、聞き手は、スライドに書いてあることを理解しないままに、次のスライドに移ることになる。また、行ったり来たりするようだと、話の流れが分かりにくくなる。

全部にこだわらない

プレゼンの準備を真面目にすればするほど、色々なことを伝えたくなると思う。準備の過程で知ったことを全部話したくなるかもしれない。だが、先ほど挙げたように話し手と聞き手の間には情報格差がある。全部伝えようとしても聞き手は受け止めきれない

だから、13ヶ条の第12条にあるように何でも話すのはよろしくない。短い時間で聞き手が理解できる内容は限られている。たくさん話されたら、聞き手は消化不良になってしまうかもしれない。

だから、自分の言いたいことをしぼって伝えるようにしよう。全部を伝えようとしてもどうせ聞き手は受け止めきれないのだ。全部にこだわるのを止めて、重要なポイントを聞き手にしっかりおさえてもらうことに注力しよう

また、たとえ自分では時間内に伝えられると思っても、実際のプレゼンでは往々にしてうまくいかないものだ。もちろん練習をしっかりとすることで、時間が足りなくなるということを防ぐことはできる。だが、不測の事態でプレゼン時間が短くなることがあるかもしれない。例えば、あなたがしっかり準備したとしても、司会進行が遅れてしまったために、プレゼンの時間を5分縮めてほしいと言われることがあるかもしれない。

こういった場合には、13ヶ条の第13条にあるように無理に全部を見せるのは難しい。だから、状況に応じて、スライドを飛ばしてもかまわない。

参考:良いプレゼンを作り上げるための資料

良いプレゼンを作り上げるときに参考になるウェブサイトとして、「伝わるデザイン」というものがある [2] 。このサイトでは、どうすれば、聞き手に良く伝わるかかが書いてある。それこそ、フォントをどう選べば良いのか、どんな配色をすれば良いのかということまで書いてある。非常に参考になるので、ぜひご一読することをおすすめする。

また、プレゼンについての書籍としては、ガー・レイノルズ氏の書いた『プレゼンテーションZEN』のシリーズがおすすめだ。このシリーズは、シンプルで分かりやすいプレゼンという考えを学ぶときに非常に役立つだろう。

プレゼンテーションZEN 第2版』の方がどちらかと言えば基本的な考え方を示しているのに対し、『プレゼンテーションZENデザイン』の方は具体的なデザインの方法について書いてある。

脚注
  1. Pixabay での JuralMin氏のパブリックドメインの画像に対し、文字を入れるなどの加工を加えた。 []
  2. このサイトに記述されている内容に即した書籍として『伝わるデザインの基本 増補改訂版 よい資料を作るためのレイアウトのルール』というのも出ているそうだ。気になる人は見てみても良いかもしれない。 []