産経・FNN世論調査の安保法案反対集会参加を問う質問に表れた世論調査の質

概要
産経新聞・FNNが実施した世論調査で、安保法案反対集会に参加したかどうかを問う質問があった。この質問を含む世論調査にはさまざまな問題点があり、世論調査としては質の低いものになっている。また、該当する人が少ないものを調査するときは、注意する必要がある。

はじめに

2015年9月に産経新聞とFNNが合同で世論調査を実施した。この世論調査には、安保法案反対集会に参加したことがあるかという質問があった。その質問は次のようなものだ。

各地で、安保法案に反対する集会やデモが行われていますが、あなた自身は、参加したことがありますか、ありませんか。

2015年9月12日・13日実施「政治に関するFNN世論調査」Q10

この質問に対して、「ある」と答えた人が3.4%、「ない」と答えた人が96.6%だったという [1]

この結果を踏まえて、産経新聞は「FNN世論調査で分かった安保反対集会の実像 『一般市民による集会』というよりは… [2] という記事を書いている。この記事に対しては、「『デモに参加しているのはごく少数の人たちであり、共産党などの野党の動員にすぎない』というイメージを強引に導き出したのが産経新聞の記事だ」という批判 [3] もある。

こうした批判はさておき、産経新聞の記事の元になった世論調査にはいろいろとまずい点がある。以下で、産経の世論調査のどんなところがまずいのかということを見ていこうと思う。

世論調査の数値には幅がある

安保法案反対集会にはどれぐらいの人が参加したのだろうか。産経新聞とFNNの世論調査では、3.4%の人がデモに参加したことになる。これは、日本全体の3.4%の人がデモに参加したということなんだろうか。

いや、確実にそうとは言えない。産経新聞は実は1,000人にしか聞いていない。本当に確実に言えるのは、産経新聞の調査に答えた人のうち、3.4%がデモに参加したことがあるということだ。

産経新聞の調査では、安保法案反対集会に参加したと答えた人の割合は書いてあるけれども、具体的に何人がそう答えたかは書いていない。だが、1,000人を対象にして、3.4%が参加したことがあると答えたのだから、単純に言って、1,000×3.4÷100=34人が参加したことがあると答えたことになるはずだ。確実に参加したことがあると答えたと分かるのはこの34人だけなのだ。

当たり前のことだけれども、産経新聞の調査からは、調査の対象にならなかった人の状況がどうなのか分からない。日本には有権者だけで1億人強いる。結局のところ、産経新聞が調査をしたと言っても確実に状況が分かるのは調査対象になった1,000人だけであって、残りの大多数の有権者、つまり1億人強の有権者の状況はそのままではまるで分からない。それで日本の有権者全体がどうかということは論じられない。でも、これではあんまりだ。

産経新聞が調査した1,000人のことしか分からないなんて、調査をわざわざする意味がほとんどない。どうにかして、産経新聞の調査の結果から日本の有権者全体の状況が分かればうれしいことこの上ない。

こんな時に役立つのが統計学だ。統計学の中には推測統計学という分野があって、この分野の手法を用いると、限られた数のデータから全体の様子を推測することができる。今回の例で言うと、産経新聞が調査した1,000人というごく限られた数のデータから、1億人強の日本の有権者全体の様子を推測することになる。

推測統計学の手法を用いて計算すると、95%の確率で、日本の有権者全体で安保法案反対集会に参加した人の割合が2.37%から4.72%の間にあるということが分かる。

これは結構幅が広い。単純に日本の有権者数を1億人とすれば、集会に参加したと答えた人は237万人から472万人の間にあるということになる。

つまり、産経新聞の調査から分かるのは、日本の有権者全体の中で、安保法案反対集会に参加したことがある人の数は、だいたい237万人から472万人の間になるだろうということだ。結構、ざっくりしている。237万人と472万人だと倍近く違うのだ。そんなに精度は高くない。

さて、産経新聞の記事では、次のようにも述べている。

集会への参加経験者の41.1%は共産支持者で、14.7%が社民、11.7%が民主、5.8%が生活支持層で、参加者の73.5%が4党の支持層だった。

産経ニュース.(2015年9月14日).「FNN世論調査で分かった安保反対集会の実像 『一般市民による集会』というよりは…

この記事を見た人は、「なるほど4割ぐらいが共産支持者 [4] なんだな」と思うだろう。だが、実際はもっと幅がある。統計学の手法で、調査の結果から安保反対集会に参加した人全体の様子を推定することはできる。34人のうち、支持政党は共産14人、社民5人、民主4人、生活2人ということであれば、上記に引用した比率とつじつまが合う。34人中14人が共産支持者であったことを踏まえて計算すると、95%信頼区間は26.2%から57.9%になる。つまり、共産支持者は全体の4分の1から半分強であっただろうといった非常に広い幅でしか分からない。そうした非常に広い幅でしか推定できないものを記事にして大きく騒ぎ立てるほどなんだろうかとも思う。

世論調査というのは、全体を調べているわけではない。だから、実際に全体がどうなるかは推測するしかない。だけれども、その推測というものにはそれなりの幅がある。この幅が存在することを無視して議論すると、不正確なことになる

世論調査に正確に答えるか?

産経新聞の調査では、34人が安保法案反対集会に参加したと答えた。それでは、この34人は本当に安保法案反対集会に参加したのだろうか。

「おかしいことを聞くな。参加したと答えたのだから、参加したに決まっているだろうに」と思う人もいるかもしれない。だが、よく考えて見れば分かるように、「参加したと答える」ことと、「実際に参加した」ことは違うのだ。本当は参加していないのに、参加したと答える人もいるだろう。

つまり、産経新聞の調査の結果からは、34人が安保法案反対集会に参加したと答えたことは分かるのだけれども、この34人が実際に参加したかどうかは分からない。もしかしたら、この34人の中にはうそをついたり、質問の内容を勘違いして答えてしまっている人がいるかもしれない。

正直な話、突然電話がかかってきて、世論調査に答えるなんて、調査対象になった個人にとってはメリットがほとんどない。そうすると、真面目に答えようと思わずに、とにかく早く終わらせようと考える人がいてもおかしくないだろう。極端な話、質問されるたびに、何も考えずに「はい」と答えて、とっとと調査を終わらせようとした回答者もいるかもしれない。

また、相手を困らせようとして、うその回答ばかりする人もいるかもしれない。そんなあまのじゃくのような人はそんなにいないだろうが、回答者が1,000人もいればその中に数人ぐらいあまのじゃくがいてもおかしくない。

真面目に答えたとしても、質問の意図を誤解して、正しく答えられなかった可能性もある。産経新聞の質問は「反対集会」に参加したかどうかを聞いているのだけれども、賛成か反対かに関係なく安保法案に関する集会に参加したことがあるかということを聞いていると思い込んだら、安保法案賛成集会に参加したことがある人が「ある」と答える可能性もある。あるいは、高齢の調査対象者が、産経新聞の質問の意図を誤解して、「そうそう、60年安保の時に岸内閣打倒のために国会を取り囲んだことあったな、よし『ある』と答えよう」と思ったかもしれない。

真面目に答えずにとりあえず「ある」と答えた人が5人、うそをついて「ある」と答えた人が5人、質問の意図を勘違いして「ある」と答えた人が5人いたとしよう。これだけで、15人が、本当は安保法案反対集会に参加していないのに「参加したことがある」と答えたことになる。こうした人たちは、調査対象者の1.5%に過ぎない。全体から見れば大した人数ではない。だが、「参加したことがある」と答えた人が34人だから、15人と言えば、その半分近くになる。

言い換えれば、実際に参加していないのに参加したことがあると答えた人がいるために、集会に参加したとみなされた人の数が実際の倍近くになっている可能性がある。

こんなバカバカしいことは起きるわけはないだろうと考える人もいるかもしれない。だが、実際にそういう例はある。

かつて、アメリカで自衛のために銃を用いたことがあるかという電話調査をして1%の人が「はい」と答えたそうだ。そのときのアメリカの人口は2億5000万人なので、単純に言えば、年に250万人の人が自衛のために銃を用いたことになる。さらに、先ほどの質問で「はい」と答えた人の3分の1程度が犯罪目的で住居に侵入してきた者に対して銃を用いたということだ。つまり単純計算すれば、84万5000人が泥棒を撃退するために銃を使ったことになる。一方、この年、家に起きている人がいて泥棒などの侵入者と対面した件数は43万件だったそうだ。ということは、43万件の泥棒で84万5000人が撃退のために銃をぶっぱなしたのだ [5] 。自業自得とは言え、アメリカの犯罪者は、起きている人がいる家に1回泥棒に入るごとに、平均2回近く銃で撃退されることになる……そんなバカな!

なぜ、こんなバカバカしい話になったのか。それは、質問にちゃんと答えていない人がいるからだ。質問の内容を勘違いしたり、ふざけて回答したりすることで、正確な数字が出ないのだ。電話調査だと、相手が見えないという安心感のためか、こうしたふざけた回答がそのまま出てしまう可能性が高い。これに対して、対面調査で詳しく聞き出せば、勘違いやふざけた答えというのに気づきやすくなり、より正確な状況を知ることができる [6] 。さきほどのアメリカの銃の使用の件について言えば、電話調査でなくて、対面調査で状況について詳しく聞いたところ、自衛のための銃の使用が毎年6万5000件程度であるというもっともらしい結果が出ている。

電話には真面目に答えない?
電話には真面目に答えない? [7]

いずれにせよ、電話を使った世論調査では、こうした勘違いやふざけた回答が起こりうる。そして、安保法案反対集会に参加した人や銃を使用した人など、当てはまる人がもともと少ない場合は、ふざけた回答などによって実態と異なる数が出てきやすい。

当てはまる人が比較的多い場合は、上記のようなふざけた回答による影響は出にくい。例えば、「首相を支持しますか?」のようにある程度「はい」と「いいえ」のどちらもそれなりの人数がいるような質問ならばふざけた回答による影響は無視できる。

例えば、1,000人を対象に首相を支持するか調査したとしよう。仮に、本心では支持する人が600人、本心では支持しない人が400人いるとする。つまり、本心での支持率は60%で不支持率は40%になる。だが、世論調査では本心そのものを知ることができない。あくまでも表面上の回答しか分からない。

さて、支持する人にせよ支持しない人にせよ、それぞれの中に、本心とは逆に答えるあまのじゃくが1%いるとしよう。すると、本心では支持する人のうち、594人が支持すると答え、あまのじゃくの6人が支持しないと答える。また、本心では支持しない人のうち、396人が支持しないと答え、あまのじゃくの4人が支持すると答える。

結局、表面上の回答としては、支持すると答えた人が594+4=598人で、支持しないと答えた人が6+396=402人になる。ここから単純計算すると、支持率は59.8%で不支持率は40.2%となる。本心での支持率は60%で不支持率は40%だから、表面上の回答から分かる割合とそんなに変わらない。

あまのじゃくは、支持する人にも支持しない人にもそれなりにいるが、双方に同じぐらいいるために相殺して影響は消えてしまうのだ。

だが、一方の数が非常に少ないといった偏りがあると相殺されない。

極端な例を見てみよう。1,000人を対象に調査したときに、本心では賛成する人が980人、本心では反対する人が20人いるとする。つまり、本心での賛成率は98%、反対率は2%になる。

本心と逆に答えるあまのじゃくの割合は、先ほどの例と同じように1%いるとしよう。すると、本心では賛成する人のうち、970人が賛成すると答え、あまのじゃくの10人が反対すると答える。また、本心では反対する人のうち、19人が反対すると答え、あまのじゃくの1人が賛成すると答える。

結局、実際の回答としては、賛成すると答えた人が970+1=971人で、反対すると答えた人が19+10=29人になる。なんと、反対すると答えた人の4割程度があまのじゃくということになる。本心では反対すると考えている人は20人しかいないのに、実際に反対すると答えた人はその1.5倍近くになったのだ。賛成派があまりに多いため、賛成派の中のあまのじゃくの影響がすごく大きいのだ。

もちろん、反対派の中のあまのじゃくはいる。だけれども、賛成派の中のあまのじゃくに比べるとぐんと少ないので、影響が相殺されないのだ。

あまのじゃくとまでは言わないけれども、安保法案反対集会に関する世論調査の時に、政治的な集会に行っていることが知られると人から嫌われるんじゃないかと考える人は、実際には安保法案反対集会に参加していても、嘘をついて「参加したことがない」と答えるかもしれない。だが、そもそも安保法案反対集会に参加した人が非常に小さければ、このように逆に「参加したことがない」と答える人も非常に少なくなる。だから、本当は参加していないのに、「参加したことがある」と答える人の影響が大きくなる可能性が強い。

いずれにせよ、本当の割合が非常に小さい場合、あまのじゃくの影響を強く受ける。安保法案反対集会に参加した人の割合は、有権者全体から見れば、かなり小さいだろう。だからこそ、あまのじゃくの影響を受けて大きく見えることがありうるのだ。

産経新聞・FNN世論調査そのものの質の低さ

そもそも産経新聞・FNN世論調査は世論調査として質が低いように思われる。以下では、この世論調査の問題点やあやしいところについて見てみたい。

調査のやり方の説明

世論調査の結果を公開するときは、普通、その調査をどういうやり方でやったのかについても記述する。例えば、朝日新聞は10月17日・18日に実施した世論調査の結果に関する記事で、以下のように調査のやり方について説明している。

17、18の両日、コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかける「朝日RDD」方式で、全国の有権者を対象に調査した(福島県の一部を除く)。世帯用と判明した番号は3781件、有効回答は1776人。回答率47%。

朝日新聞デジタル.(2015年10月20日).「世論調査―質問と回答〈10月17・18日実施〉

だが、産経新聞とFNNの世論調査は、朝日新聞の世論調査と違ってどうやって調査したのか必ずしも明確に書かれていない。産経新聞のウェブサイトには以下のように書かれている。

エリアごとの性別・年齢構成に合わせ、電話番号を無作為に発生させるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)方式で電話をかけ、算出した回答数が得られるまで調査を行った。
産経ニュース.(2015年9月14日).「【産経・FNN合同世論調査】中国の軍拡「脅威」78.9% 内閣支持率は微増 合同世論調査の主な質問と回答

これに対して、FNNのウェブサイトでは以下のように書かれている。

「政治に関するFNN世論調査」は、2015年9月12日(土)~9月13日(日)に、全国から無作為抽出された満20歳以上の1,000人を対象に、電話による対話形式で行った。

2015年9月12日・13日実施「政治に関するFNN世論調査」

合同調査のはずなのに、やり方がかみあっていない。FNNでは無作為抽出と書いてあるが、産経新聞でいうところのRDDは厳密には無作為抽出ではない。どんなやり方で調査したのかはっきりしてほしい

世論調査の結果について、統計的に分析する時に大事になってくるのが、どのように回答者を選ぶ(=抽出する)かだ。細かい議論はここではしないけれども、回答者をちゃんと選ばないと結果が偏ったものになってしまう。逆に言うと、世論調査の結果が偏っていないということを示すためには、ちゃんとした方法で回答者を選んでいるということをまず示さなくてはならない。だけれども、産経新聞とFNNの世論調査では、そこが整合的に書いていない。

FNNなんかは「無作為抽出」と書いてあるだけである。実は無作為抽出というのは、統計学的に最も望ましい回答者の選び方なんだけれども、実際にそれがちゃんとできているかが結構あやしい。まともに無作為抽出をしようとすると、対象となりうる人全員の名簿を用意して、そこから選び出さなくてはならない。対象となりうる人を日本の有権者である [8] とすると、有権者全員が載っている名簿が必要である。選挙のために各地の選挙管理委員会が有権者の名簿を持っているので、それらをつなぎあわせれば日本の有権者全員が載っている名簿を作ることができるから、そこから無作為抽出をするのは理論的には可能である。実際、「統計調査、世論調査、学術研究その他の調査研究で公益性が高いと認められるもののうち政治・選挙に関するものを実施するために閲覧する場合」 [9] は有権者の名簿を見ることができる。

だが、産経新聞とFNNがこうした作業をして調査したようには思えない。というのも、電話で調査したと言っているからだ。有権者の名簿には電話番号は載っていない。無作為抽出はしていないと考えるのが自然だ。

電話で世論調査をするときは、普通はRDDという手法が用いられる。RDDは、Random Digit Dialing の略で、コンピュータで無作為に作った電話番号にかけて調査をするものだ。RDDは無作為抽出ではなく、無作為抽出の代わりとして用いられる手法だ。それで、産経新聞の記事にもRDDで調査したと書いてある。とすると、FNNが書いた「全国から無作為抽出された満20歳以上の1,000人を対象に」という説明は正確ではないということになる。このように不正確に書かれると、FNNの世論調査の担当者は「無作為抽出」の意味が分かっていないのではないかと思われるだろうし、引いては調査が信頼できないのではないかと思われるかもしれない。

結果を分析するにあたって、RDDでは無作為抽出では考えなくてよかったことをいろいろと考える必要が出てくる。例えば、普通のRDDは固定電話に対してしかかけないので、固定電話を持っていない人たちのデータが含まれていないということを踏まえて考える必要が出てくる。あらかじめ、調査はRDDで実施したとちゃんと述べてくれれば、構えて見ることができる。だけれども、産経新聞・FNNの世論調査ではそこが明確でないので、よくよく考えない限り、構えて見ることすらできないのだ。

回答してくれなかった人はどうなったのか

さて、先に引いた朝日新聞の世論調査のやり方の説明では、有効回答が何人で、回答率が何%であったかということがしっかりと書かれている。だが、産経新聞・FNNの世論調査はそうしたことが書いていない。これもまた問題である。

世論調査において、回答率というのは非常に重要な情報だ。回答率があまりに低いと、その調査は信用できなくなる。というのも、回答率が低い調査の場合、わざわざそのような調査に答えようという人は結構偏っている可能性がある。一般的に、忙しい人ならあまり回答してくれないだろうし、ひまな人なら回答してくれる可能性が高い。そうすると、回答率が低い調査は往々にして、ひまな人の状況を反映しているものになってしまう。普通、世論調査をするときはひまな人だけを見たいのではなくて、忙しい人も含めてもっと全体的に見たいものなのだ。その意味で、回答率が高いと忙しい人でも答えているだろうから、偏りが少ないものになる可能性が高い。

1,250人に聞こうとしてそのうち1,000人が答えてくれた場合(回答率80%)と、10,000人に聞こうとしてそのうち1,000人が答えてくれた場合(回答率10%)だと、同じく1,000人が答えていると言っても信頼性はだんぜん違うのだ。調査の信頼性に関わる重要な情報を書いていない時点で、産経新聞の世論調査の質が疑われることになる。

また、産経新聞の世論調査を見てみると、どうやら電話をかけて回答してくれた人がちょうど1,000人になるまで聞いているようだ。ということは、回答してくれた人が1,000人になった時点で調査を打ち切っている可能性が高い。電話をかける回数はあらかじめコントロールできるのだけれども、かかった相手が回答してくれるかどうかは実際にやってみるまで分からないので、ちょうど1,000人が回答するタイミングをコントロールすることができない。例えば、朝から調査を始めてたまたま午後3時に1,000人になったとしたら、そこで調査が終わることになる。

もしそのようなやり方をしていたら、偏りが生じる。例えば、朝から仕事に出ていて、午後7時ぐらいに家に帰ってくるような人は、午後3時に調査を打ち切っていたとしたら、調査の対象にならない。すると、昼間留守にするような人のデータがとれなくなり、偏った結果となってしまう。それこそ、安保法案反対集会に出ていて留守だったらどうするのだろうか。

真っ当な世論調査だと、調査対象になった人が留守の場合、何度も電話をかけなおす。例えば、午前10時に電話をかけて、対象者がいなかったとしよう。そうしたら時間を改めて同じ人にかけなおすのだ。朝日新聞なんかは以下に引用したように何度も電話をかけて、偏りがなくなるようにしている。

選ばれた人が不在でも、一度決めた対象者は変えず、時間を変えて最大6回まで電話をかけます。また、すぐには応じていただけない場合でも、重ねて協力をお願いしています。これも、回答者の構成を「有権者の縮図」に近づけるためです。

朝日新聞デジタル.(n.d.). 「『朝日RDD』方式とは

産経新聞の調査が1,000人になった時点で打ち切る仕組みだったならば、朝日新聞のようにかけなおすということがないということになる。そうすると、留守がちな人の情報は集められないことになる。

また、さっき推測統計学の手法を使えば、だいたい237万人から472万人に収まるんじゃないのと書いた。だけども、実はこの推測統計学の手法は、まともな方法で調査したときじゃないと使えない。おおざっぱに言えば、偏りなくデータを集めた時に始めてちゃんと推測ができる。もし、データが偏っていたら、しっかりとした推測はできないのだ。

いずれにせよ、1,000人になったらそこで打ち切るような調査をしているのであれば、データとして偏っている可能性が強く、結果として使えないものになる [10] 。世論調査としてほめられたものではない。

「わからない」と答えた人がいないあやしさ

産経新聞の世論調査で、あやしいところがもう1件ある。安保法案反対集会に参加したかどうかという質問で、「わからない・どちらともいえない」と答えている人が全くいないことだ。1,000人にというそれなりの人数に対して聞いているのだから、「わからない・どちらともいえない」という人が1人ぐらいいてもおかしくない。

実際、同じ世論調査の他の質問では「わからない・どちらともいえない」と答えている人が、数パーセントから10数パーセント程度はいる。安保法案反対集会の参加を問う質問だけ「わからない・どちらともいえない」が全くいないのはとても奇妙だ。

もちろん、どう思っているかを問う質問ではなくて、参加したかどうかという事実関係を問う質問なので、「わからない」と答える可能性は普通の質問より少ないとは思う。だけれども、1人もいないというのは結構あやしい。

例えば、集会に興味を持って、集会の輪の中には入らなかったけれども、脇から見守っていた場合は参加したかどうか悩むかもしれない。そういった場合、「わからない」と答える可能性だってある。また、参加したかどうかについて答えたくない人もいて、そうした人が無回答で通したり、「わからない」と言って次の質問に進もうとするかもしれない。1,000人もの人を調べておきながら、こうした人が全くいないというのも変な話だ。

もちろん、これは邪推にすぎないから、本当に「わからない・どちらともいえない」と答えた人が全くいなかっただけなのかもしれない。とは言え、気になるところではある。

質問の質の低さ

安保反対集会に参加したかどうかを聞いた世論調査には、世論調査の質問として質が低いものがある。例えば、日本の安全保障にとって中国が脅威かどうかをたずねる質問では次のように聞いている。

9月3日に、中国は抗日戦争勝利70周年の軍事パレードで、大陸弾道ミサイルをはじめ、軍事力の増強ぶりを内外に示しました。あなたは、日本の安全保障にとって、中国は脅威だと思いますか、思いませんか。

2015年9月12日・13日実施「政治に関するFNN世論調査」Q12

調査に慣れていない人は、この質問に対して違和感を抱かないかもしれない。だが、この質問は、前半部分で中国の軍事力が日本の脅威となっていると連想させるものになっている。質問の前半で、中国の軍事力の増強ぶりについて触れているので、質問された人は「それは脅威に違いない」と思い込まされてしまっているのだ。質問の前半で、中国の軍事力を中国脅威論をあおろうとしていると思われてもしかたがない。

もちろん、回答者がみんな国際情勢について詳しいわけではないから、補足説明が必要になるかもしれない。だが、ここまで書いてしまっては誘導的な質問だと言われてもしかたがないだろう。

まとめ

今までの内容をまとめよう。

まず、産経新聞・FNNの世論調査は、世論調査として質が低いものである。せめて、どのような調査をやったかを明示すべきである。可能ならば、調査のやり方を改めるべきである。

次に、安保法案反対集会に参加したかどうかを問う質問のように、該当する人が少ない質問の取り扱いには注意が必要である。これは産経新聞の世論調査に限らず言えることだ。該当する人が少ないと、どうしても正確な結果が出にくくなるのである。

脚注
  1. 2015年9月12日・13日実施「政治に関するFNN世論調査」 []
  2. 産経ニュース.(2015年9月14日).「FNN世論調査で分かった安保反対集会の実像 『一般市民による集会』というよりは…」 []
  3. 平田崇浩.(2015年9月17日).「産経世論調査:安保法案反対デモの評価をゆがめるな」『毎日新聞』. []
  4. ところで、なぜ共産党については「共産支持」で、生活については「生活支持」なんだろうか。「者」と「層」ではちょっとニュアンスが違うような気がする。産経の校閲はちゃんと仕事をすべきだろう。 []
  5. Reinhart, A. (2015). Statistics Done Wrong: The Woefully Complete Guide. San Francisco: No Starch Press. p.45による。同様の話が、このブログに掲載した「【翻訳】ダメな統計学 (5) p値と基準率の誤り」という記事に載っている。 []
  6. もちろんこうした詳しい対面調査は費用も時間もかかるのでそう簡単にできないという短所がある。 []
  7. PixabayよりPublicDomainPictureのパブリックドメイン画像を使用。 []
  8. 【産経・FNN合同世論調査】中国の軍拡「脅威」78.9% 内閣支持率は微増 合同世論調査の主な質問と回答」の説明によれば「調査対象は全国の成年男女1000人」と書かれているだけで、有権者に限定していないように見える。字面だけ見れば、成年ならば外国人のように有権者でなくても調査対象となるように見える。産経新聞が出した改憲草案「国民の憲法」では第47条で外国人参政権を許さないことを規定するなど、産経新聞は外国人参政権に反対する論調をとっているが、それで世論調査で外国人に対しても質問していたとしたら、ずいぶん滑稽な話である。 []
  9. 総務省.(n.d.). 「選挙人名簿」『なるほど!選挙』. []
  10. 一応、「【産経・FNN合同世論調査】中国の軍拡「脅威」78.9% 内閣支持率は微増 合同世論調査の主な質問と回答」の説明によれば、「エリアごとの性別・年齢構成に合わせ」と書いているので、性別・年齢の偏りは外そうとしているのが見受けられる。ただ、このやり方でも、留守がちな人が少なくなるという偏りは排除できない []