分かりやすい文章を書くためのたったひとつのさえたやりかた:『数学文章作法』のレビュー

概要
『数学文章作法 基礎編』・『数学文章作法 推敲編』の書評。両書は、分かりやすい文章を書くためにはどうすれば良いかということが書かれている。

はじめに

数学文章作法 基礎編』という本と、その姉妹編に当たる『数学文章作法 推敲編』という本 [1] について紹介する。

この2冊は、分かりやすい文章を書く方法を記した本である。『基礎編』は、分かりやすい文章を書くための方法を具体例とともに説明し、『推敲編』は、文章を分かりやすくするためにどう直していけば良いかについて具体的に説明している。

どんな人が読むべきか

この本のタイトルには『数学文章作法』と、「数学」という単語が入っている。このことから分かるように、この2冊は数学が関わる説明文の書き方を示すことが念頭に置かれている。しかし、この2冊に書かれている内容は数学が関係しない説明文を書くときにも有用である。

著者自身は『基礎編』 (p.12) において、「文章を書く人」全般に役立つと述べている。この著者の意見は、私は正しいと思っている。この2冊は、数学が関係しない文章を書くときにも役立つ情報 [2] が多数書かれている。だから、数学に関する文章を書く予定がなくても、文章を書く予定があるのならば読んで損はないと思う。

たったひとつのさえたやりかた

さて、『数学文章作法』で説明されているのは、「正確で読みやすい文章を書く心がけ」 [3] である。それでは、どうすれば正確で読みやすい文章を書くことができるのだろうか。

著者の掲げる原則は非常に簡単なものである。それは、以下に記すたったひとつのさえたやりかただ。

読者のことを考える

読者のことを考える――この単純明快な原則に従って文章を書くことが、分かりやすい文章を書くことにつながるのだ。『数学文章作法』では、この原則を主題として、様々な変奏曲が示されている。読者のことを考えることを具体的に文章にどのように反映していけば良いかについて、この2冊は様々な角度から示している。例えば、『基礎編』で挙げられている具体的な心がけとして、以下のようなものがある。

このように、読者のことを考えるということから出発して、より具体的なテクニックを使用して分かりやすい文章を書いていくのだ。

読者のことを考えることが分かりやすい文章を書くために重要だ。
読者のことを考えることが分かりやすい文章を書くために重要だ。 [4]

『数学文章作法 基礎編』

ここからは、本の中身についてもっと詳しく見ていこう。まずは、『数学文章作法 基礎編』から説明する。

この本は、文庫本で約190ページある。「正確で読みやすい文章を書く心がけ」を記した本と銘打っただけあって、この本自体も非常に読みやすいので、読者はすらすら読み進めることができるだろう。

この本では、大事なことが何度も繰り返し記されている。これによって、文章を書くときの心がけがしっかり身につくようになっている。何度も繰り返し記されているといっても、くどすぎるということはない。あくまでも、読者の頭に自然に入るように繰り返されている。

また、豊富な事例を挙げることで読者の理解を助けようとしている。ただし、挙げられている事例に、数学やプログラミングについてのものがあるので、こうした分野に疎い人にとっては若干抵抗があるかもしれない。ただ、この本は、あくまでも文章の書き方について説明している本であって、数学やプログラミングについて説明している本ではないので、例として挙げられている数式などが分からなかったら読み飛ばしても問題ないだろう。筆者がうまく例を挙げているので、数式などを飛ばしても何とか理解できるようになっているのだ。

数学文章作法 基礎編』は全部で8章ある。それぞれの内容を簡単に紹介しよう。

『数学文章作法 推敲編』

次に、『数学文章作法 推敲編』の内容について紹介しよう。なお、『推敲編』については、筑摩書房のウェブサイトで「はじめに」と「第1章」の試し読みができるので、興味がある人は読んでみても良いだろう。

この本は、文章をより分かりやすくするために書き直す方法について説明したものである。分量は『基礎編』とほぼ同じで、文庫本で約190ページある。『推敲編』も非常に読みやすいので、通読するのは容易だろう。

文章を分かりやすくするためには書き直しが重要である。
文章を分かりやすくするためには書き直しが重要である。 [5]

推敲編』は全部で9章ある。それぞれの内容を簡単に紹介しよう。

基礎編』に比べると、より実践的な内容になっている。特に、『推敲編』第3章・第4章に書かれているの語句や文を分かりやすくする方法は、『基礎編』で説明されているものがさらに詳しくなっているので、一読の価値がある。

脚注
  1. 「作法」は「さほう」と読むのではなく、「さくほう」と読む。 []
  2. 数学記号の使い方の話など、数学に関する文章を書くときに役立つ情報も載っている。数学に関係しない読者はそういった情報は、あっさり飛ばして読んでしまっても良いと思う。 []
  3. 基礎編』 p.11 []
  4. Pixabayよりgeralt氏のパブリックドメイン画像を使用。 []
  5. Pixabayよりcondesign氏のパブリックドメイン画像を使用。 []