はじめに
『数学文章作法 基礎編』という本と、その姉妹編に当たる『数学文章作法 推敲編』という本 [1] について紹介する。
- 結城浩 (2013). 『数学文章作法 基礎編』 東京:筑摩書房.
- 結城浩 (2014). 『数学文章作法 推敲編』 東京:筑摩書房.
この2冊は、分かりやすい文章を書く方法を記した本である。『基礎編』は、分かりやすい文章を書くための方法を具体例とともに説明し、『推敲編』は、文章を分かりやすくするためにどう直していけば良いかについて具体的に説明している。
どんな人が読むべきか
この本のタイトルには『数学文章作法』と、「数学」という単語が入っている。このことから分かるように、この2冊は数学が関わる説明文の書き方を示すことが念頭に置かれている。しかし、この2冊に書かれている内容は数学が関係しない説明文を書くときにも有用である。
著者自身は『基礎編』 (p.12) において、「文章を書く人」全般に役立つと述べている。この著者の意見は、私は正しいと思っている。この2冊は、数学が関係しない文章を書くときにも役立つ情報 [2] が多数書かれている。だから、数学に関する文章を書く予定がなくても、文章を書く予定があるのならば読んで損はないと思う。
たったひとつのさえたやりかた
さて、『数学文章作法』で説明されているのは、「正確で読みやすい文章を書く心がけ」 [3] である。それでは、どうすれば正確で読みやすい文章を書くことができるのだろうか。
著者の掲げる原則は非常に簡単なものである。それは、以下に記すたったひとつのさえたやりかただ。
読者のことを考える
読者のことを考える――この単純明快な原則に従って文章を書くことが、分かりやすい文章を書くことにつながるのだ。『数学文章作法』では、この原則を主題として、様々な変奏曲が示されている。読者のことを考えることを具体的に文章にどのように反映していけば良いかについて、この2冊は様々な角度から示している。例えば、『基礎編』で挙げられている具体的な心がけとして、以下のようなものがある。
- 読者のことを考えて、読者の期待通りの場所に期待通りのことが来るように読みやすい階層構造を作る(3.3節)
- 読者のことを考えて、読者が意味をよく理解できるように、理解の手がかりとなるメタ情報を記す(4.3節)
- 読者のことを考えて、読者が慣れ親しんでいるものを事例として挙げる(5.2節)
このように、読者のことを考えるということから出発して、より具体的なテクニックを使用して分かりやすい文章を書いていくのだ。
『数学文章作法 基礎編』
ここからは、本の中身についてもっと詳しく見ていこう。まずは、『数学文章作法 基礎編』から説明する。
この本は、文庫本で約190ページある。「正確で読みやすい文章を書く心がけ」を記した本と銘打っただけあって、この本自体も非常に読みやすいので、読者はすらすら読み進めることができるだろう。
この本では、大事なことが何度も繰り返し記されている。これによって、文章を書くときの心がけがしっかり身につくようになっている。何度も繰り返し記されているといっても、くどすぎるということはない。あくまでも、読者の頭に自然に入るように繰り返されている。
また、豊富な事例を挙げることで読者の理解を助けようとしている。ただし、挙げられている事例に、数学やプログラミングについてのものがあるので、こうした分野に疎い人にとっては若干抵抗があるかもしれない。ただ、この本は、あくまでも文章の書き方について説明している本であって、数学やプログラミングについて説明している本ではないので、例として挙げられている数式などが分からなかったら読み飛ばしても問題ないだろう。筆者がうまく例を挙げているので、数式などを飛ばしても何とか理解できるようになっているのだ。
『数学文章作法 基礎編』は全部で8章ある。それぞれの内容を簡単に紹介しよう。
- 第1章:読者
- 文章を書くときに、読者のことを考える重要性について
- 第2章:基本
- 形式を守ることの重要性、語句・文・段落などを書くときに注意すべきことについて
- 第3章:順序と階層
- 読みやすい順序と読みやすい階層構造について
- 第4章:数式と命題
- 読者にとって分かりやすくするための数式や命題の書き方について
- 第5章:例
- どうすれば読者の理解を助ける例を挙げられるかについて
- 第6章:問いと答え
- 読者の理解をうながすための問いと答えの与え方について
- 第7章:目次と索引
- 目次と索引の作り方について
- 第8章:たったひとつの伝えたいこと
- 全体のまとめ
『数学文章作法 推敲編』
次に、『数学文章作法 推敲編』の内容について紹介しよう。なお、『推敲編』については、筑摩書房のウェブサイトで「はじめに」と「第1章」の試し読みができるので、興味がある人は読んでみても良いだろう。
この本は、文章をより分かりやすくするために書き直す方法について説明したものである。分量は『基礎編』とほぼ同じで、文庫本で約190ページある。『推敲編』も非常に読みやすいので、通読するのは容易だろう。
『推敲編』は全部で9章ある。それぞれの内容を簡単に紹介しよう。
- 第1章:読者の迷い
- どういった文章だと読者にとって読みにくくなるのかについて
- 第2章:推敲の基本
- 推敲の基本的な方法論について
- 第3章:語句
- 語句を分かりやすくする方法について
- 第4章:文の推敲
- 文を分かりやすくする方法について
- 第5章:文章全体のバランス
- 文章の分量や品質にばらつきが出ないようにするために注意すべきことについて
- 第6章:レビュー
- 他の人に自分の文章を見てもらう方法とその際に注意すべきことについて
- 第7章:推敲のコツ
- 効率的な推敲を行うためのテクニックについて
- 第8章:推敲を終えるとき
- どんなタイミングで推敲を終えるのか、など推敲を終えるときに注意すべきことについて
- 第9章:推敲のチェックリスト
- 全体のまとめ
『基礎編』に比べると、より実践的な内容になっている。特に、『推敲編』第3章・第4章に書かれているの語句や文を分かりやすくする方法は、『基礎編』で説明されているものがさらに詳しくなっているので、一読の価値がある。