早稲田大学の博士の学位を持っていることが恥ずかしいと考えて返上を申し出た人

概要
早稲田大学の博士論文審査の杜撰さを受けて、早稲田大学の博士の学位を持っていることが恥ずかしいと考えて、自身が早稲田大学から授与された博士の学位を返上することを申し出た大学教授がいる。

背景

STAP細胞問題で有名となった小保方晴子氏は、2011年に早稲田大学先進理工学研究科に博士論文を提出し、同年3月に早稲田大学より博士(工学)の学位が授与された。しかしながら、その博士論文の内容は極めて杜撰なものであり、到底博士の学位に値するものではなかった。

2014年に、STAP細胞問題が明るみに出ると、小保方氏の博士論文に問題が多いことも広く知られることとなった。これを受けて、早稲田大学は、3月31日に、「先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」を設置し、小保方氏の博士論文およびそ論文に対する審査について調査することとなった。

調査委員会は7月17日に調査報告書を発表した。その報告書では、小保方氏の博士論文が非常に問題が多いと述べ、小保方氏に博士の学位を与えるべきでないと厳しく指弾している。しかし、同時に調査委員会は、小保方氏の博士の学位は取り消しの条件には当てはまらないとした [1]

この調査委員会の報告に様々な人が反発した。例えば、ハフィントンポスト日本版の「【小保方氏の博士論文】早稲田大学の調査に研究者から強い批判の声」という記事では、報告に反発する研究者の意見が多数載せられている。早稲田大学の内部からも教員の有志により調査委員会の報告を批判する「『小保方晴子氏の博士学位論文に対する調査報告書』に対する早稲田大学大学院 先進理工学研究科 教員有志の所見」という文書が出されている [2]

博士の学位の返上の申し出

こうした中、山口大学理学部の坂井伸之教授は、自らが1995年に早稲田大学から授与された博士(理学)の学位を返上することを申し出た。

坂井教授が早稲田大学の鎌田総長にあてた「博士学位の返上願」には次のように書かれている。

私は1995年に早稲田大学で学位(理学)を取得しましたが、7月17日に発表された調査委員会報告書及び総長の会見を拝見し、早稲田大学の学位は無価値であり、それどころか持っていることが恥ずかしいと感じました。

よって、ここに博士学位の返上を申し出ます。

博士学位の返上願」(坂井伸之、2014年7月27日)

つまり、早稲田大学は小保方氏のような極めて杜撰な論文に対しても博士の学位を与えるほどであるので、その博士の学位に何ら価値を見いだせないと考えたのであろう。そして、早稲田大学の博士号を持っていることが恥ずかしいとまで言うようになったのである。

なお、坂井教授は自身のウェブサイトの自己紹介のページで、学歴欄に「2014年7月 早稲田大学に博士学位の返上を申し出る」と記述している。

(2015年3月27日追記:J-CASTニュースが3月10日付で「山口大教授が母校早大に『博士』返上していた 小保方問題で『持っていることが恥ずかしい』『無価値』」という記事を掲載している。同記事によれば、坂井教授には早稲田大学から「そもそも規則がない」とのメールが送られてきたのみで、その後はどういう処理がされたかが分からないという。)

脚注
  1. 個人的な意見を言えば、報告書においては法的な厳密性にこだわったために小保方氏の博士の学位を取り消すべきという話にならなかったのではないかと思われる。学位取消にはあくまでも学内規則を厳密に適用すべきで恣意は許さないということから、取り消すという結論にはならなかったのだと思う。特に、この調査委員会の委員長は法律家であり、あくまでも法的な厳密に結論を導き出すことを考えているのであろう。調査報告書の議論に従えば、学位取消には「不正の方法により学位授与を受けた事実」を厳密に認定することが必要になる。限りなく黒に近い灰色である場合であっても、黒でなければ黒と言うわけにはいかない。調査委員会は「怪しい灰色論文」であるところまでは言えても、そこから「黒」という結論を導き出すことが法的厳密性の下ではできなかったのだろう。限りなく黒に近い灰色の論文はだめだというのは学術界における内部倫理というものであって、法的な話では必ずしもそうはならないのであろう。つまり、学術界からすると断罪すべきひどい案件であっても、ひとたび学位を取り消すという法的な問題をはらみ、なおかつ外部にも関わることになると沈黙せざるをえないということになってしまうのだ。 []
  2. なお、2014年10月に早稲田大学は、結局小保方氏の博士の学位を取り消すことを決めた。ただし、1年の猶予期間が定められており、その期間内に小保方氏がしっかりとした論文を提出できれば学位は取り消さないとした。詳しくは「早稲田大学における博士学位論文の取り扱い等について」を参照のこと。 []