2014年の「今年の英単語」は #blacklivesmatter に

概要
アメリカ方言学会が「2014年の今年の英単語」として #blacklivesmatter(〜黒人の命が重要だ)というハッシュタグを選んだ。アメリカの黒人差別に抗議する運動が2014年に活発となったためである。

はじめに

#blacklivesmatter が2014年の「今年の英単語」に
#blacklivesmatter が2014年の「今年の英単語」に

2015年1月9日、アメリカ方言学会が「2014年の今年の英単語」(Word of the Year) として#blacklivesmatter(#黒人の命が重要だ)というハッシュタグを選んだ [1] 。2014年のアメリカにおいては、警官によって何ら罪のない黒人が殺害されるなど、黒人に対する差別的扱いが社会的に大きな問題となった。そして、こうした差別に対抗するために、#blacklivesmatterというハッシュタグが広く使われた。このことによって、#blacklivesmatterが2014年の今年の英単語となったのである。

ハッシュタグの形だと単語の切れ目が分からないが、単語と単語の間にスペースを入れると、Black lives matter.という文になる。Blackは「黒人」、livesは「生命」 [2] matterは「重要である」という意味なので、「黒人の命が重要だ」という意味になる。

以下では、まずハッシュタグとは何かということについて説明する。そして、2014年のアメリカで黒人差別問題がどう展開したかについて紹介し、その中で#blacklivesmatterというハッシュタグがどう用いられたのかについて説明する。最後に、アメリカ方言学会が選ぶ「今年の英単語」がどういうものなのかについてする。

ハッシュタグとは

ハッシュタグ (hashtag) とは、Twitterで用いられる検索用のキーワードである。Twitterのつぶやきの中にハッシュタグを入力すると、そのハッシュタグでつぶやきが検索できるようになる。共通の興味を持つ人がその興味を持っているテーマに関するつぶやきを検索しやすくするために用いられる。このため、社会的な運動を起こして連帯しようという人たちは、その運動を示すハッシュタグを使うことで、他にその運動に興味を持っている人を探し出すことができるのである。

ハッシュタグは間にスペースをはさめない仕組みになっているので、単語と単語の間にスペースを入れずに、単語を直接つなげて表記する。このため、#black lives matterと表記するのではなく、#blacklivesmatterとつなげて表記するのである。

社会的な運動に関するハッシュタグとしては、#IceBucketChallenge#JeSuisCharlieなどがある。#IceBucketChallengeは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究のために寄付を募るアイスバケツチャレンジ運動を示すハッシュタグである。#JeSuisCharlieというハッシュタグは、フランス語で「私はシャルリーだ」という意味で、2015年1月にフランスで起きたテロ事件の被害者であるシャルリー・エブドへの連帯を示すものである。

なお、アメリカ方言学会は#hashtag(ハッシュタグ)という単語そのものを2012年の今年の英単語に選ばれている。

2014年のアメリカにおける黒人差別問題

アメリカ合衆国において、黒人に対する差別は古くから問題となっていた。そして、黒人の命がないがしろにされるということがしばしばあった。2014年になってこうした問題が突然生じたというわけではない。だが、2014年に警察官によって黒人が殺害された事件が発生したことにより、この問題が大きな問題であると表面化することとなった。

2014年8月にミズーリ州ファーガソンで、マイケル・ブラウンという黒人少年が白人警官によって殺害された。これに対して、抗議活動が行われた。さらにこの殺害した白人警官が起訴されなかったため、反発はさらに強まり、抗議活動はさらに活発なものとなった。

また、2014年7月にはニューヨーク市において、エリック・ガーナーという黒人男性が白人警官に逮捕された際に、警官によって絞められたために死亡したという事件が起きた。白人警官による黒人に対する暴力的な扱いが大きな問題となったのである。

こうした状況への抗議を示すために使われたハッシュタグが、#blacklivesmatterである。

アメリカ方言学会の「今年の英単語」とは

アメリカ方言学会 (American Dialect Society) は、毎年「今年の英単語」 (Word of the Year) を選んでおり、2014年分が25回目となる。

なお、以前、オックスフォード大学出版局が2014年の「今年の英単語」としてvapeを選んだことを紹介したが、これはアメリカ方言学会の今年の英単語とは別物である。オックスフォード大学出版局は年内に「今年の英単語」を選び、これとは全く別に、アメリカ方言学会は年明けに「今年の英単語」を選ぶ。

アメリカ方言学会のウェブサイトには、「今年の英単語」を選ぶ際の基準として以下の4つのものが挙げられている。

  1. その年において、明らかに新しい語、あるいは新しく人気となった語
  2. その年に広く使われた語か、顕著に使われた語、またはその両方に当たる語
  3. 大衆の談話を示唆または反映する語
  4. 過剰使用や誤用に対するいらだちや不満を示すわけではない語

#blacklivesmatter は2014年に新しく生まれたハッシュタグではないが、アメリカの黒人差別問題の関係で2014年に非常に注目されたため、2014年の「今年の英単語」に選ばれたのである。また、ハッシュタグは伝統的な意味での「単語」ではないが、簡潔に社会的なメッセージを伝えることができるということが評価されている [3]

今までの「今年の英単語」

1990年から2014年までの「今年の英単語」のリストは以下の通りである。なお、1994年と1995年はそれぞれ同率一位で2つの単語が「今年の英単語」として選ばれている。

1990年から2014年までの「今年の英単語」
単語和訳
1990bushlips誠意のない政治的レトリック
1991mother of all 〜〜のすべての母
1992Not!反対!
1993information superhighway情報スーパーハイウェイ
1994cyberサイバー
morph形を変える
1995World Wide Webワールドワイドウェブ
newt新参者として攻撃的にふるまう
1996mom〔soccer momなどの形で〕教育熱心な母親
1997millennium bug2000年問題
1998e-電子〜〔情報通信に関することを示す接頭辞 [4]
1999Y2K2000年
2000chad穿孔くず〔パンチカードに穴をあけたときに出る紙くず〕
20019-119・11同時多発テロ
2002weapons of mass destruction大量破壊兵器
2003metrosexualファッションに興味を持つ異性愛の男性
2004red/blue/purple states赤い/青い/紫の州〔赤い州は共和党支持者が多い州、青い州は民主党支持者が多い州、紫の州はどちらでもない州を指す〕
2005truthiness実際の状況に関わらず真実となってほしいと望まれるもの
2006to be plutoed格下げされる
2007subprimeサブプライム〔借金返済の信用力の低い層〕
2008bailout企業への資金援助
2009tweet〔Twitterでの〕つぶやき
2010appアプリ
2011occupy〔格差是正を目指してウォール街などの金融の中心を〕占拠すること
2012#hashtagハッシュタグ
2013because〜だから
2014#blacklivesmatter#黒人の命が重要だ

「部門賞」

アメリカ方言学会では、「今年の英単語」を選ぶだけでなく、「今年の最も便利な英単語」や「今年の最も不必要な英単語」といった「部門賞」 [5] ともいうべき語も選んでいる。

2014年については、以下のような単語が選ばれている。

2014年の「部門賞」
部門単語和訳
最も便利(most useful)even難しい状況や感情に対処する
最も創造的(most creative)columbusing文化の盗用、特にマイノリティの文化ですでにあるものを白人が「発見」することを指す [6]
最も不必要(most unnecessary)baelessロマンスのパートナーがいないこと
最も突飛(most outrageous)second-amendment(動詞として)銃で人を殺す [7]
最も婉曲的(most euphemistic)EIT“enhanced interrogation technique”(拡張された尋問テクニック)の略。
最も成功しそうである(most likely to succeed)salty非常に腹を立てている [8]
最も成功しそうにない(least likely to succeed)platisherコンテンツを創るプラットフォームも提供しているオンラインメディア
最も注目に値するハッシュタグ(most notable hashtag)#blacklivesmatter#黒人の命が重要だ
脚注
  1. American Dialect Society. (2015, Jan.) 2014 Word of the Year is “#blacklivesmatter” [Web log post]. Retrieved from http://www.americandialect.org/2014-word-of-the-year-is-blacklivesmatter []
  2. 「生活」という意味もある。 []
  3. American Dialect Society. (2015, Jan.) 2014 Word of the Year is “#blacklivesmatter” [Web log post]. Retrieved from http://www.americandialect.org/2014-word-of-the-year-is-blacklivesmatter []
  4. e-mail〔電子メール〕, e-commerce〔電子商取引〕の e- である。 []
  5. 「部門賞」という言葉は、説明を分かりやすくするために、私があえてつけたものである。アメリカ方言学会がこの言葉を使っているわけではない。 []
  6. “Columbus”は、「新大陸」を「発見」したとされるクリストファー・コロンブスのことである。西洋中心の歴史観からすると、コロンブスが新大陸を発見したことになる。しかし、その発見より前に新大陸には先住民が住んでいるのだから、先住民も含めて考えればコロンブスは発見者でも何でもないのである。 []
  7. “second amendment” 本来は武器を携帯する権利を定めたアメリカ合衆国憲法修正第二条のことを指す。一般に、アメリカでの銃規制の反対派は、銃規制を行うことが憲法修正第二条に違反すると考えている、これに対して、銃規制に賛同する人たちが、反対派を揶揄して銃を使って人を殺すことを「修正第二条」と呼ぶのである。 []
  8. “salty”は元々「塩辛い」という意味である。 []