科学・医療記事の元となった研究を探す方法

概要
一般向けの科学・医療記事の元となった研究を検索エンジンなどを活用して探し出す方法について紹介。

はじめに

一般の人に向けたニュース記事で、科学や医療について扱っているものは少なくない。そうした記事の中には、何らかの学術研究の成果を元にして書かれているものがある。ここでは、そうした記事の元となった研究を探す方法について紹介する。

ニュース記事の中のキーワードをヒントにすれば、元となった研究を探し出すことができる。
ニュース記事の中のキーワードをヒントにすれば、元となった研究を探し出すことができる。 [1]

一般向けの科学・医療記事には、研究の詳細が書かれていなかったり、ひどい場合には研究内容を曲解して伝えていたりする場合がある。元となった研究を探すことができれば、記事の不明瞭なところをはっきりさせることができるだろう。ただし、元となった研究を読み解く力がなければどうしようもならない。だから、実はここに記されている方法は専門家向けであって、素人には向かないので注意が必要だ。

なお、以下ではウェブ上のニュース記事を例にしているが、紙の新聞記事、雑誌記事などにも応用することができる。

記事内にある元研究へのリンクを利用する

科学や医療に関する記事の元となった研究を知りたいときはどうすれば良いのだろうか? その記事の中に元研究へのリンクがあれば、それを利用すれば良い。

例えばMedエッジの「『エナジードリンク割り』は危険、米研究グループが警鐘」という記事を見てみよう。この記事では、エナジードリンクを酒で割った「エナジードリンク割り」が危険だという研究を紹介している。この記事の末尾に、記事の元となった研究論文の文献情報と、その研究論文へのリンクが貼られている。こうした記事に載っているリンクを利用すれば、簡単に元となった研究を見つけ出すことができる。

記事内のヒントから元研究を探し出す

だが、残念なことに、元となった研究へのリンクや出典情報が書かれていない科学や医療に関する記事は少なくない。こうした場合、記事内に載っている情報が元研究を探すヒントとして使える可能性がある。

事例1

例えば、レスポンスというニュースサイトの「海洋研究開発機構、台風発生を2週間前に予測可能を実証」という記事の元となっている研究が何か調べたいとしよう。残念なことに、この記事には元になっている研究へのリンクが貼られていない。しかし、以下に引用するように、どこの研究成果が載っているかというヒントが記事の中に隠されている。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)シームレス環境予測研究分野の中野満寿男特任研究員と東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹教授らの共同研究チームは、台風発生の2週間予測が実現可能であることを実証した。

〔中略〕

今回の成果は、米国の地球物理学専門雑誌「Geophysical Research Letters」オンライン版に1月20日付け(日本時間)で掲載した。

海洋研究開発機構、台風発生を2週間前に予測可能を実証」(レスポンス、2015年1月22日付け)より

上記引用を見れば分かるように、研究成果が掲載された学術誌の名前Geophysical Research Lettersが載っている。まずは、この学術誌の名前をキーワードにして、Googleなどの検索エンジンで検索してみよう。

GoogleGeophysical Research Lettersと検索すると、この学術誌の公式サイトが出てくるので、ここにアクセスしよう。

この公式サイトには、幸いなことに検索欄がある。ここに研究チームの人名を入れてみよう。記事の中には、「中野満寿男特任研究員」とあるので、“Nakano”とローマ字 [2] にして検索すればよい。

学術誌の公式ウェブサイトの検索欄に研究者の名前を入れて検索する。
学術誌の公式ウェブサイトの検索欄に研究者の名前を入れて検索する。

すると、検索結果として様々な論文が出てくる。ここでは一番上に、それらしい論文が出ている。この“Intraseasonal variability and tropical cyclogenesis in the western North Pacific simulated by a global nonhydrostatic atmospheric model”という論文の著者には、記事の中で挙げられていた「中野満寿男特任研究員」(Masuo Nakano) と「佐藤正樹教授」(Masaki Satoh) の名前が入っている。さらに日付も記事と同じ2015年1月20日 (20 JAN 2015) となっている。この論文が、記事の元になっている研究と見なして良いだろう。

検索で見つかった論文には、記事で触れられていた研究者の名前や日付が含まれている。
検索で見つかった論文には、記事で触れられていた研究者の名前や日付が含まれている。

このように、学術誌の名前研究者の名前、日付などの情報を見れば、元となっている研究を探し出すことができる。

事例2

もう1つ例を見てみよう。WIRED.jpというサイトの「メモを取っても記憶は定着しない:研究結果」という記事では、メモを取ることでかえってうまく記憶できなくなるという研究が紹介されている。だが、この記事の元となった研究へのリンクはない。しかし、ヒントはある。ヒントとなる文を引用しよう。

カナダのマウント・セント・ヴィンセント大学のミシェル・エスクリットとシエラ・マーは、学生グループを集めてトランプの「神経衰弱」ゲームを用いた実験を行った。

メモを取っても記憶は定着しない:研究結果」(WIRED.jp、2015年1月17日付け)

ここには2つのヒントがある。「マウント・セント・ヴィンセント大学」という所属機関と、「ミシェル・エスクリット」・「シエラ・マー」という研究者の名前だ。これらの情報を頼りにして検索すれば、元となった研究にたどり着く可能性が高い。

ただ、ここで問題なのは、いずれもカタカナで書かれていることだ。元となった研究は英語で書かれているだろう [3] から、これを英語の表記にしないと検索できない [4]

実は、カタカナの後に英語の表記を付しているウェブページというのが結構ある。こうしたウェブページを見つけられれば、英語の表記が分かるのだ。こういうときにも、Googleなどの検索エンジンが活用できる。試しに、「マウント・セント・ヴィンセント」というキーワードで検索してみよう。すると、「マウント・セント・ビンセント」 [5] と“Mount Saint Vincent”とが併記されているウェブページが見つかるはずだ。これで“Mount Saint Vincent”が検索の際のキーワードとして使える。

また、少し英語ができる人ならば、研究者の一人である「ミシェル」が“Michelle”となることはすぐに分かるだろう。これを踏まえて、“Mount Saint Vincent”と“Michelle”で検索してみよう。

すると、マウント・セント・ヴィンセント大学のウェブサイトに、Dr. Michelle Eskritt-Keckという教員紹介のページがあることが分かる。“Eskritt-Keck”という名前をカタカナにすれば「エスクリット=ケック」になるから、おそらく記事に出てくる「ミシェル・エスクリット」氏のページであると考えられる。

さらに、この教員紹介のページに、発表した論文の一覧が載っており、その中に“Eskritt, M. & Ma, S. (2014). Intentional forgetting: Note-taking as a naturalistic example. Memory & Cognition, 42, 237-246.”という論文が挙げられている。この論文には共著者として、“Sierra Ma”という名前が載っている。これは記事の中にあった「シエラ・マー」氏のことだろう。さらに、論文のタイトルには“Note-taking”(メモをとること)が入っているので、この論文が先ほどの記事の元となっていると考えて良さそうである。

Google Scholarの活用

今までに見てきた例では、単にGoogleといった一般向けの検索エンジンを使ってきた。

一般向けの検索エンジンでうまく見つからない場合は、Google Scholarという学術資料を検索するための検索エンジンを活用するのも良い。Google Scholarの使い方は簡単で、普通のGoogleと同様に検索欄にキーワードを入れるだけで検索できる。また、研究が出た期間を限定して検索することもできる。

まとめ

脚注
  1. Pixabayよりfelixioncool氏のパブリックドメイン画像を使用。 []
  2. 英文雑誌なので、人名はローマ字表記にしなければ検索に引っかからない。 []
  3. 学術論文の多くは英語で書かれる。しかも、カナダの大学の研究者だから英語を使って論文を書くと考えるのが自然だろう。 []
  4. 実はこの「メモを取っても記憶は定着しない:研究結果」という記事は、英語から訳された記事なので、英語版を見れば英語での表記はすぐに分かる。ただ、調べる方法を知ってもらうために、あえてカタカナから調べるようにしている。 []
  5. 「ヴィンセント」が「ビンセント」となっているが、これは単なる表記の揺れだ。 []