【翻訳】ダメな統計学 (12) 何ができるだろうか

概要
この章では、統計の誤りを防ぐために、統計教育を充実させることと、学術誌が努力すべきであることが重要であると提言している。

本文

『ダメな統計学』の目次は「ダメな統計学:目次」を参照のこと。この章に先立つ文章は「何をしてきたか」を参照のこと。

このガイドを通じてたくさんの統計に関する問題について論じてきた。こうした問題は、医学、物理学、気候科学、生物学、化学、神経科学などの科学の多くの分野で見られる。統計的手法を使ってデータを分析しようとする研究者は誰でも誤りを犯しうる。そして、今まで見てきたように、ほとんどの人が誤りを犯している。このことに対して何ができるだろうか?

統計教育

まずはちゃんと学ぶことが重要だ。
まずはちゃんと学ぶことが重要だ。 [1]

アメリカの科学の学生のほとんどが、最低限度の統計教育しか受けていない。多くの学生は、もしかしたら必修が1、2科目といったところかもしれないし、あるいは全く受けていないかもしれない。そして、たとえ学生が統計の授業を取ったとしても、学生は適切な統計技法を完全に理解することは決してなく(あるいは単に技法を忘れてしまって)、科学上の問題に対して統計的概念を適用することができないと大学の教員は言っている。この状況は変える必要がある。ほとんど全ての科学に関する学問分野は実験データの統計分析次第のものだ。統計上の誤りは研究助成金や研究者の時間を無駄にするのだ。

いくつかの大学では、学生が専門分野の問題に対してすぐに統計知識を適用できるように、統計の授業を科学の授業に統合する実験的試みを行っている。予備的な結果によると、これらの手法はうまくいっている。学生は統計についてより多く学び、それを忘れないようになった。そして、強制的に統計の授業を取らされることに対して学生がぶつくさ文句を言う時間は減った [2] 。より多くの大学が、どの手法が最もうまくはたらくかを見るためにコンセプトテストを用いた上で、このような手法を採用すべきである。

もっと自由に手に入る教材も必要だ [3] 。私は、実験室でのデータを分析する必要があって、どうすれば分からなかった時に、統計に初めて触れた。しっかりとした統計教育がもっと広まるまでは、多くの学生が私と同じような状態になって、教材が必要になるだろう。OpenIntro Stats [4] のようなプロジェクトは有望であり、近い将来より多くのものが見られると期待している。

科学に関する出版

学術誌は、私が論じた問題の多くを解決するためにゆっくりと前進している。ランダム化試験のためのCONSORTのような、報告に関するガイドラインは、公刊される論文が再現可能であるようにするために必要となる情報が何かということをはっきりさせている。残念なことに、今まで見てきたように、これらのガイドラインが強制されることは少ない。私たちは、著者がより厳格な基準を守るように、学術誌に圧力をかけ続けなくてはならない。

一流の学術誌はこの先頭に立つべきである。『ネイチャー』はそうし始めており、記事が出版される前に著者が埋める必要がある新しいチェックリストを発表している。このチェックリストでは、標本の大きさ、検定力の計算、臨床試験登録番号、完全なCONSORTチェックリスト、多重比較をするための調整について報告すること、そしてデータとソースコードを共有することを求めている。このガイドラインは『ダメな統計』に示されているほとんどの問題を対象としている。『ネイチャー』は、必要がある時に論文について統計学者に相談できるようにしている。

これらのガイドラインが強制されれば、結果はずっと信頼でき、再現可能な科学研究となるだろう。もっと多くの学術誌が同じようにすべきだ。

あなたがすべきこと

あなたがすべきことは、以下の単純な4つのステップで表現することができる。

  1. 統計の教科書を読むか、良い統計の授業を取れ。練習せよ。
  2. 学んだ誤解や誤りを避けるために、自分のデータ分析について、注意深く慎重に計画せよ。
  3. もし、$p$値の単純な誤解のような、ありふれた誤りを科学の文献で見つけたら、犯人の頭を統計学の教科書でどつけ [5] 。これは治療だ。
  4. 科学教育と科学出版の変化を求めよ。これは我々の研究だ。台無しにするな。

この文章の続きは「終わりに」を参照のこと。

脚注
  1. 画像出典:Pixabayよりjarmoluk氏のパブリックドメイン画像を使用。 []
  2. 原注:A. M. Metz. Teaching Statistics in Biology: Using Inquiry-based Learning to Strengthen Understanding of Statistical Analysis in Biology Laboratory Courses. CBE Life Sciences Education, 7:317–326, 2008. []
  3. 訳注:例えば「オンラインで無料で読める統計書22冊」という記事を参照のこと。 []
  4. 訳注:OpenIntro Statisticsはインターネット上で公開されている自由に使える統計の教材である。入門から始まり、かなり高度な話題まで載っている。ただし、易しくはなく、他の入門教材に比べるとかなり難しい部類に入る。 []
  5. 訳注:実際に教科書でどついた場合にもたらされる結果について、訳者は責任を負いかねる。 []