文部科学省はスーパーな学校がお好き?

概要
文部科学省は、「スーパーグローバル大学」や「スーパーサイエンスハイスクール」をはじめ、さまざまな「スーパー」が付いた学校を指定する事業を実施している。

はじめに

2014年9月26日、日本の文部科学省が「スーパーグローバル大学創成支援」の対象となる大学を発表した。この事業は、単純に言えば、日本の大学が国際的に「すげー」と言われたいから、一部の大学に金を出すというものだ。この施策が本当にうまくいくかは私にはよく分からない。だけれども、文科省のお偉方は、他国の学術論文数が順調に増えているにもかかわらず日本の学術論文数については10年ほど増えないまま [1] にさせたり、大学院の定員を大幅に拡大して大量の高学歴ワーキングプアを生み続けたりするなど、極めて卓越した成果を挙げている。だから、きっとこの施策も、われら凡人には思いつきもしないような論理で大成功を収めるんだろうと思う。

スーパーな学校
スーパーな学校

さて、われら凡人には思いつきもしないと言えば、この事業の「スーパーグローバル大学」というネーミングだ。これはまさに凡人には思いつきもしないネーミングだ。一般人が「スーパーグローバル」なんて名前をつけたら、こいつはアホかと思われることは必至だろうけれども、優秀な人が多い文科省のお偉方がまさかアホなわけがないので、きっと深い意味があるんだろう。

凡人たる私には、文科省のお偉方が考えている深い意味なんて到底分からないのだけれども、凡人なりにがんばって「スーパーグローバル大学」の意味を説明してみたい。「スーパー」というのは「…より上に」とか「…を超えて」という意味。それで「グローバル」というのは「球体としての地球」という意味。すると、「スーパーグローバル大学」は「地球を超えた大学」ということに。なるほど、きっと火星人やグレイやレプティリアンに勝てる大学を作るんですね、わかります。高等教育というものを「韓国に勝つ!」とか「中国に負けるな!」という程度の低い国威発揚のおもちゃにしようとしている人に対する素敵な風刺だと思う。

それはさておき、文科省は「スーパーグローバル大学」に限らず、「スーパー」な学校を作るのが好きなようで、今まで以下のような事業を実施している。

どうやらこの国では、スーパーな学校のバーゲンセールを行っているようだ。スーパーだけに大安売りだ。

様々なスーパーな学校

文科省が実施しているスーパーな学校に関する事業を簡単に紹介しよう。

スーパーサイエンスハイスクール

スーパーな学校の中で最も歴史があるのは「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH) だ。これは「将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等」 [2] である。平成14年度(2002年度)に始まったもので、平成26年度(2014年度)には計204校 [3] がスーパーサイエンスハイスクールに指定されている。

スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール

スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール (SELHi) は、スーパーサイエンスハイスクールと同時期に始まった [4] もので、「英語教育の先進事例となるような学校づくりを推進するため」に「英語教育を重点的に行う高等学校等」 [5] を指定した事業である。これは平成14年度(2002年度)に始まり、平成21年度(2009年度)に終了した。

スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール

スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール (SPH) は、「社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成するため、先進的な卓越した取組を行う専門高校」 [6] を指定する事業で、平成26年度(2014年度)に始まったばかりである。平成26年度(2014年度)の指定校は10校で、農業・工業・商業・看護など様々な学科が指定されている。

スーパー食育スクール

スーパー食育スクールは、「食育のモデル実践プログラム」 [7] を行う学校を指定する事業で、平成26年度(2014年度)に始まったばかりである。平成26年度(2014年度)の指定校は、小中高合わせて42校である。

スーパーエコスクール

文部科学省では、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進を行っており、そこで学校のゼロエネルギー化 [8] を進めるために「スーパーエコスクール実証事業」というものを行っている。これは平成24年度(2012年度)に始まったもので、平成26年度(2014年度)も続いている。平成26年度(2014年度)の事業は、川崎市と連携した佐藤エネルギーリサーチ株式会社が委託を受けている。これは川崎市がこれから新しく作る小学校のゼロエネルギー化を進めるためのものなので、現に「スーパーエコスクール」が存在しているわけではない。

スーパーグローバルハイスクール

スーパーグローバルハイスクールは、「国際化を進める国内の大学を中心に,企業,国際機関等と連携を図り,グローバルな社会課題を発見・解決できる人材や,グローバルなビジネスで活躍できる人材の育成に取り組む高等学校等」((文部科学省初等中等教育局国際教育課 (2014) 「平成26年度スーパーグローバルハイスクールの指定について(平成26年3月28日)」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/sgh/1346060.htm)) が指定される事業である。この事業は平成26年度(2014年度)から始まり、56校が指定されている。

スーパーグローバル大学

スーパーグローバル大学創成支援事業は、「我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学」を重点的に支援する事業で、平成26年度(2014年度)から始まった。「世界ランキングトップ100を目指す力のある大学」を支援するタイプA(トップ型)が13校、「我が国社会のグローバル化を牽引する大学」を支援するタイプB(グローバル化牽引型)が24校で、あわせて37の大学が支援対象となる [9]

先ほど述べた「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」も「スーパーグローバルハイスクール」も「スーパー食育スクール」も、スーパーグローバル大学創成支援事業と同じ平成26年度(2014年度)から始まっている。もしかしたら、前年に予算を立てるときに「スーパー」という言葉にはまってしまったお偉方がいたのかもしれない。あるいは、担当官が経費を少しでも削減するために、スーパーのチラシの裏に事業計画を書いていたのかもしれない。清貧の鑑である。

脚注
  1. このことの詳細については例えば「興味深い国立大学論文数の変動パターン」を参照。 []
  2. 科学技術・学術政策局基盤政策課 (2011) 「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/gakkou/1309941.htm []
  3. 初等中等教育局教育課程課教育課程第二係 (2014) 「平成26年度スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の内定等」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/03/1345968.htm []
  4. 文科省の文書を見ていると、「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」は中黒(・)を入れるのが正式の表記で、「スーパーサイエンスハイスクール」は中黒が無いのが正式の表記のようである。なぜ両者で中黒の有無が違うのかは良く分からない。 []
  5. 初等中等教育局 国際教育課 外国語教育推進室 (n.d.) 「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)について」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1293088.htm []
  6. 初等中等教育局児童生徒課産業教育振興室 (2014) 「平成26年度「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」(SPH)指定校について」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/04/1346420.htm []
  7. スポーツ・青少年局学校健康教育課企画室調査係 (2014) 「平成26年度スーパー食育スクールの指定について」『文部科学省』 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/04/1346607.htm []
  8. 実際のエネルギー消費はゼロにできないが、太陽光発電などで自らエネルギーを生産し、生産と消費を差し引きゼロにしようというものだ。 []
  9. 高等教育局高等教育企画課国際企画室調整係 (2014) 「平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」採択構想の決定について」『文部科学省』http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/09/1352218.htm []