はじめに
2013年11月19日、「2013年の今年の英単語」 (Word of the Year 2013) に selfie(自分撮り写真)が選ばれた [1] 。これは、オックスフォード大学出版局 (Oxford University Press) の辞書部門が選んだものである。オックスフォード大学出版局は、『オックスフォード英語辞典』(Oxford English Dictionary; OED)を始めとする様々な辞書を出版しており、その辞書の担当部門が selfie を「今年の英単語」に選んだのだ。
この記事では、まず「今年の英単語」とはどういうものなのか紹介し、その後 selfie という単語について簡単に紹介する。
「今年の英単語」とは
「オックスフォード辞典 今年の英単語」 (Oxford Dictionaries Word of the Year) は、オックスフォード大学出版局 (Oxford University Press) の辞書部門が選んだ、その年に多大な関心を集めた単語 (word) または表現 (expression) のことである。なお、「今年の英単語」は、必ずしもその年に生まれた新語である必要はない。実際、2013年の「今年の英単語」である selfie は2002年に使用された例があり、2013年に生まれたわけではない。その年に生まれたかどうかよりも、その年に関心を集めたかどうかが重要になのだ。
基本的に「今年の英単語」はイギリスとアメリカで別々のものが選ばれる。例えば、2005年はイギリスでは sudoku(数独)、アメリカでは podcast(ポッドキャスト)と別々の単語が選ばれている。ただし、年によってはイギリスとアメリカで同じ単語が選ばれることもある。今回の2013年はイギリスとアメリカで同じ単語が選ばれている。
過去の「今年の英単語」
過去の「今年の英単語」には次のようなものがある。
年 | イギリス | アメリカ | ||
---|---|---|---|---|
2004 | chav | チャブ [2] | (イギリスと同じ) | |
2005 | sudoku | 数独 | podcast | ポッドキャスト |
2006 | bovvered | 〔“Am I bovvered?”の形で〕気にしない [3] | carbon-neutral | カーボンニュートラル [4] |
2007 | carbon footprint | カーボンフットプリント [5] | locavore | 地元食主義者 [6] |
2008 | credit crunch | 信用危機 [7] | hypermiling | 燃費効率を上げること |
2009 | simples | 〔間投詞として〕簡単に理解できる | unfriend | 〔SNSの〕友達リストから外す |
2010 | big society | 大きな社会 [8] | refudiate | 拒絶する [9] |
2011 | squeezed middle | 圧迫された中間層 [10] | (イギリスと同じ) | |
2012 | omnishambles | すべての観点からまずい対応をしてしまった状況 | GIF | 〔動詞として〕GIF形式の画像を作る |
おしくも「今年の英単語」にならなかった単語
オックスフォード大学出版局の辞書部門がおしくも2013年の「今年の英単語」にならなかった単語として挙げているもの [11] を以下に紹介する。
- bedroom tax: 寝室税〔イギリス政府の住宅給付削減政策を、反対派が批判的に描写した言葉〕
- binge-watch: 〔連続ドラマなどの続き物の番組について〕連続して長時間映像を見ること
- bitcoin: ビットコイン〔電子マネーの一種〕
- olinguito: オリンギト〔2013年に発見された哺乳動物〕
- schmeat: 人造肉
- showrooming: ショールーミング〔実際の小売店舗では商品の実物を見るだけで購入を行わず、ネット通販で商品を購入する消費者の行動のこと〕
- twerk: 尻をふって踊るダンス
これらの単語はいずれも2013年に注目を集めた言葉である。
“selfie”について
「今年の英単語」に選ばれた selfie は自分自身を撮った写真を示す単語であり、本2013年に大幅に使用回数が増えた。
この selfie という単語は2013年8月 [12] にオックスフォード辞典のウェブサイト (Oxford Dictionaries) に収録された。そこでの定義を以下に引用する。
なお、“selfie”は世界最大の英語辞典『オックスフォード英語辞典』にはまだ載っていない。今後掲載されるかは未定である。『オックスフォード英語辞典』に収録されるには、10年使用され続けなくてはならないという規則がある [14] ので、収録されるのは当分先だと思われる。
オックスフォード大学出版局の辞書部門の調査によると、selfie という単語の使用頻度は、1年前に比べて17,000%増加したとのことである [15] 。いかにこの語が関心を集めるようになったかが分かるだろう。また、selfie は2013年に生まれた単語ではない。オックスフォード大学出版局の辞書部門の調査 [16] によると、2002年にオーストラリアのネット掲示板で使用された用例がある。なお、オーストラリアでは -ie という接尾辞を使うことが多いので、selfie もオーストラリアで生まれた可能性が高い。
また、selfie からの派生語として、helfie(自分の髪 (hair) を撮ったもの)や drelfie(自分の酔っぱらった (drunken) 姿を撮ったもの)などがある。
- Oxford Dictionaries. (2013, November). Oxford Dictionaries Word of the Year 2013 [Web log post]. Retrieved from http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/oxford-dictionaries-word-of-the-year-2013/ [↩]
- 独特の派手な格好をしている下層の若者のこと。 [↩]
- イギリスのコメディ番組『キャサリン・テイト・ショウ』 (Catherine Tate Show) でよく出てくるセリフ“Am I bovvered?”に由来する。 [↩]
- 生産活動の中で算出される二酸化炭素の量と吸収される二酸化炭素の量が同じであること。 [↩]
- 商品などの製造・運送・廃棄などの過程で生じる温室効果ガスの排出量を二酸化炭素量に換算した上で表示したもののこと。 [↩]
- もっぱら地元で取れたものを食べる人のこと。 [↩]
- 急に資金調達が困難になること。 [↩]
- イギリスの保守党が2010年の総選挙で掲げたうたい文句。 [↩]
- サラ・ペイリン元アラスカ州知事が、refute(論破する)と repudiate(拒絶する)という2つの単語を混同して、refudiate と書いてしまったのが由来。 [↩]
- 物価上昇に給与上昇が追いついていないために、困窮していく中間層のことを指す。 [↩]
- Oxford Dictionaries. (2013, November). Oxford Dictionaries Word of the Year 2013 [Web log post]. Retrieved from http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/oxford-dictionaries-word-of-the-year-2013/ [↩]
- Oxford Dictionaries. (2013, August). Buzzworthy words added to Oxford Dictionaries Online – squee! [Web log post]. Retrieved from http://blog.oxforddictionaries.com/2013/08/new-words-august-2013/ ちなみに、selfie と同時期に掲載された単語として、emoji がある。これは日本語の「絵文字」に由来する単語であり、スマートフォンなどで入力できる絵文字のことを指している。 [↩]
- 宇宙飛行士の星出彰彦氏が自分自身をデジタルカメラで撮影したもの。詳細はNASAのウェブサイトのISS032-E-025258というページを参照のこと。 [↩]
- Simpson, J. (2013, June). A heads up for the June 2013 OED release [Web log post]. Retrieved from http://public.oed.com/the-oed-today/recent-updates-to-the-oed/june-2013-update/a-heads-up-for-the-june-2013-oed-release [↩]
- Oxford Dictionaries. (2013, November). Oxford Dictionaries Word of the Year 2013 [Web log post]. Retrieved from http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/oxford-dictionaries-word-of-the-year-2013/ [↩]
- Oxford Dictionaries. (2013, November). Oxford Dictionaries Word of the Year 2013 [Web log post]. Retrieved from http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/oxford-dictionaries-word-of-the-year-2013/ [↩]